第15話

 時は歩みを止めることなく、進み続ける。蒼也の転校から、はや2ヶ月がたった。

 生活はそれほど変わらない、授業を受け、古城の稽古に付き合い、たまに円たちと話して、みとれと同じ部屋で寝る。

 周囲も同じだった、不埒な乱入者であり、夢を破った蒼也への敵愾心はそう簡単に解けない。幼稚な嫌がらせは絶えなかった。教師陣は見つければ注意もするが、それは陰湿化、陰険さを助長するだけだった。

 だが、蒼也は東堂理事長に泣きつこうとはしなかった。慣れているのもあったし、まるっきり孤立無援というわけでもなかったのだ。

 みとれは勿論、ゆうと行人、張本人たる古城、円たちがいた。自分のクラスでは、行人との会話が切欠になったのか幾分か空気が柔らかい。

 逆恨みかと危惧した古城は、適度に休みをとりつつ蒼也の鍛錬を続けていた。意図が見えないのが不気味だが、稚拙な正義論を訓示させるのを除けば良い師匠である。実際、的確に実力がついていることで、最近では鍛錬が楽しくなってきている。

 そうすると、やはり古城が気になった。不細工で、体臭がきつく、愛想が良くもない。アーマースーツにしろ『タートルマイスター』の名にしろ、決して見聞して格好の良いものではない。それでも、多くの生徒の指示を集める『華』があるのは事実だった。

 過去のランキング戦の記録を見るとそれが良く分かる。『頂』を持たないという圧倒的不利をものともせず立ち向かう姿は自然に応援を集める、そしてそれに終わらず勝利する強さがあった。初めて1位となった刑部との闘いに至っては、思わず蒼也は応援してしまっていた。

 調べた経歴には、若干7歳で両親を亡くし、その会社を継いで急成長させた天才児であると記してあった。だが、その後についての資料は乏しい。現在の年齢がわかったくらいで、本人に直接聞いても答えは得られなかった。

 現状、みとれは言わずもがな、行人はごく普通に接してくれたし、ゆうは恐る恐るだが偏見無く応じる。円と太郎と瞬以外に心許せる者などできないだろうと思っていた蒼也にとっては、以前と全く同じとは言わないが、マシな生活である。

 毎日欠かさずしていた円たちへの連絡が、日をまたぎ、3日に1回になった。


「うっし……!」


「『頂』使ってよお」


 その日は校外学習の日だった。

 職業体験ということで、蒼也、みとれ、行人、ゆうは班を組み、配送市場の手伝いに駆り出されていた。

 変身せず箱を運ぶ蒼也に、みとれが不満の声をあげる。『頂』の使用が禁止されているわけではない、現に近くの生徒は念動力で大量の箱を運んで並べている。


「トレーニングなんだよ。夜変身するからさ」


「いっぱいだよ?」


「ふ、不潔です……」


「そういうんじゃないってば……。う~ん、どうも誤解を招きやすいなあ」


「ははは」


 行人が笑うのにつられて、蒼也も思わず笑う。みとれも、ゆうもつられ、小休止になった。

 とりとめなく雑談をする。昨日見たテレビや、学園の噂話、不満やテストについて。かつて太郎や瞬としかしなかった会話を自然にしていることに、蒼也は内心驚いていた。


(もしかすると―)


 太郎や瞬のように、友人になれるのではないだろうか? 古城や他の生徒とも。出来すぎた思考と自嘲しつつも、それを捨て去る気にはなれなかった。


(どうも変だなあ)


 妙に気恥ずかしい気分を誤魔化すように、視線をずらした蒼也の前にそれが座っていた。 


「遊ぼう?」


 蒼也とそう変わらない、小柄な少年だった。

 格好は、蒼也が変身した姿と驚くほどよく似ていた。黄色と緑を基調とした全身タイツに、真っ赤なマント。輝くばかりの笑顔。大人びたつもりで、幼さを強調している固められ、皺ひとつない額を出したオールバック。

 そして―


「遊ぼう?」


 まんべんなく、血にまみれていた。

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