第13話

「う~む……」


「はい、あ~んして?」


 蒼也とみとれは、食堂にいた。

 昼時で芋を洗うかのような混雑ぶりにも関わらず、2人の座る席だけが誰も寄り付かなかった。


「トンカツ好きでしょ?」


「お前はねえ、オレは今考えてるんだよ?」


「何を? 一位でおめでたいじゃない。何も考えないでエンジョイしようよ」


 蒼也はため息を吐き、みそ汁を啜った。

 確かに校内ランキング1位の称号は手に入った。しかし、古城は奇妙な要求を突き付けてきた。

 放課後に、自分の手ほどきを受けること。

 後ろめたい気持ちと、その場の空気でつい受けてしまったが思い返せば返すほどその意図が読めなかった。

 さらに、編入した教室でも敵意を持って迎えられた。それ自体は、今までの蒼也の人生で珍しくはない。有言実行、我道を歩む彼に障害のないほうが稀だった。

 が、ここは違う。異分子に対する敵意ではなく、何か大事なものを奪われまいとする警戒心にも似たものだ。

 それは、蒼也にとって初めての体験だった。




「せい!」


「あだだ!」


「ああ! 蒼也様!」


「……今日はここまで」


 一礼し、古城は道場から退室した。

 放課後、トレーニング室も兼ねたそこで、蒼也は古城に2時間みっちり仕込まれた。立ち方から足の運び、組み手。授業でする程度の運動経験しかない蒼也には、地獄と言って良いだろう。


「ちくしょう!」


 大の字に倒れたまま、汗だくの手を畳にたたきつける。筋肉痛で、まともにうごけそうにない。

 目の端に、にやにや笑う生徒たちの姿があった。「いい気味だ」。声はなくともその台詞が感じ取れる。蒼也は今や知らぬもののいない有名人だ。

 一位を奪われたことによる、意趣返しとしか思えなかった。


「みとれ、おんぶして」


「ええ~『頂』使ってよお」


「……ああ、もう」




「変身すればいいのに」


「うるさい……いたた……」


 よろよろと手すりを伝いながら歩く蒼也を、呆れながら見とれが振り返る。『頂』を使うことを負けと我を張った蒼也は、意地でも自分の力で帰ろうと校内を進んでいた。歩いて10分の部屋までの道のりが無限に感じられる。

 すれ違った生徒が蒼也を笑う。そこまであからさまでは無いにしろ、手を貸そうと言うものも現れなかった。


「くそ……皆殺しに……いててて」


「はいはい『頂』『頂』! やっちゃえやっちゃえ!」


 囃すみとれを無視し、蒼也は歯を食いしばって耐える。

 変身して、仕返しをするのは簡単だ。だがその場合確実に問題となり、『祭典』に差し支える。

 理事長の東堂自身がスカウトしたのだから、多少の無理は効くのかもしれない。事実、古城との一戦の結果は迅速に反映されている。だが、笑った程度の生徒を『頂』で攻撃したというのは庇いきれまい。『祭典』への出場も危ぶまれる。

 生徒たち、否、何故か慕われているらしい古城はそれを狙っているのかもしれないと蒼也は思った。


「上……等……だよ!」


 裏を返せば、あの亀男は自分に『ランキング戦』で勝てずこんな姑息な手段をとっているのだ。情けない、素手でも圧倒し、完全勝利を見せつけてやると、蒼也は誓うのだった。


「あだ⁉」


 ともあれ、今は筋肉痛が酷い。

 みとれに起こしてもらい、蒼也は息を整えた。古城にもらった打撃痕がズキズキと傷む。


「あ、あいつ……『頂』使ってんじゃねえか?」


「古城先輩『頂』使えないよ」


「……は?」


 単なる毒。

 それにみとれが出した答えに、蒼也は固まらざるを得なかった。


「は?」


「だから古城先輩『頂』使えないの。新人類じゃないし」


 その場にへたり込む。痛みでなく、脱力したのだ。


「な、なに言ってんだ?」


「あれ? 言ってないっけ?」


「あ、あいつ……『頂』ないの? あ、あのスーツは?」


「実家がお金持ちで自分で作ってるんだって。超ハイテクスーツで戦ってるの」


「な、なんだそれ?」

 

 蒼也は訳が分からなかった。

 なぜ『新人類』の学園にただの人間が? それが1位? あの強さで?

 考えをまとめるために、しばらくの時間を蒼也は要していた。

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