第3話
トーナメントは、『祭典』の前哨戦として夏の風物詩でもあった。
各メディアで特集が決まれ、活躍した者には様々な分野のスカウトが訪れる。例え途中敗退に終わっても、十分チャンスはある。
逆に言えば、出場できない場合はよほど校内ランキングで僅差だったとか、希少な『頂』でないと中々注目は集まらなかった。
「瞬殺だったよなあ姉ちゃん」
「しつこい。ほら、野菜も食べるう」
「荒れてますね」
「大体、僕らを何とかしないと一位になれないじゃない」
「うるへー」
円の自室での夕食に、新顔があった。
一人はモデルと言っても通じるスタイルの良い細身の美少年、雷光瞬。
もう一人はがっしりとしているが、朴訥とした地味な少年、鈴木太郎。
学園ランキングで蒼也の上をいく、どうしても越えられない壁の1、2位の『新人類』であり、ルームメイトでもあった。
「大体お前らがずるいんだよ。俺のが絶対強いのに」
「そういわれましてもねえ」
「仕方ないよ」
瞬は『不影』と呼ばれる『頂』の持ち主だ。
仕組みは簡単で『相手より早く動ける』のみ。蒼也と戦っても、3分逃げ切り自滅を待てば、勝てる。業を煮やした蒼也が『天罰』で攻撃したが逃げ延びられた。
太郎の『頂』は、最高出力では蒼也に劣るが、常に地上最強でいられる『ベスト』。
劣るといっても力はほぼ互角で、3分では決着がつかないのでこれまた自然と勝てる。見事に蒼也の弱点をつく力の持ち主なのだ。
「ほらほらあ、食べなさい」
「あ、どうも」
「いただいてます」
ともあれ、蒼也にとっては目の上のたん瘤である2人だが、不思議と友人であった。無論学園の指示であるという側面も大きい。強大な『頂』を持ちながら自制心にかけている蒼也は、危険人物である。それを抑えられるのは、彼らをおいて他にはいない。
だがそれとは別に3人は友であった。
3人とも、通常の『新人類』と比べてもかなり抜き出ている。必然、畏敬を持って接せられてきたし、それが悪感情にならないように自制を求められ、善良を強いられてきた。1年生で上位を独占する3人に対しての妬みも大きい。仮面をかぶっての友人など友人と呼べるだろうか。
だが、学園で出会った蒼也は違った。そんなものしったこっちゃないと、暴れ、ひたすらに『祭典』を目指した。
理由は幼稚じみたものだ、ただ昔見たのが格好いいし、お金も手に入るしちやほやされたい。自分にはふさわしい最強の『頂』がある。外聞も恥もなく、突き進む。
当然、反発を招いた。幼いころから孤独で、周囲との軋轢は絶えたことがない。円がいるとはいえ、学園トーナメントで躊躇なく殺人を行うのは異常だ。蒼也に近づくものと言えば、円、太郎に瞬、3位の座を奪おうとする塔乃、響、三角州だけだ。教師ですら、避けている。
それでも蒼也はやめない、自分を貫き野望を目指し続けている。傷つこうと挫けようと止まらなかった。
そんな姿が、二人にはとても魅力的だったし、我儘だが陰湿だったり悪意をもっているわけでもない。やんちゃ坊主なのだ。
弟を、持った気分だった。兄であるなら、弟を助けるのが当然だ。
「どうにかできないかなあ」
「僕らを倒せばいいんですよ」
「だから、あんな3対1なんてしてもしかたないじゃない。『祭典』が全部じゃないよ」
「いやだい」
「口に物をいれたまま喋らない」
「いでっ」
周囲からは、腫物の蒼也のお守り兼監視役で貧乏くじを引かされているとみられている円と二人だが。なんのことはない、友達なだけだった。
ともに学び、遊び、喧嘩した。
だが、こればかりはどうしようもなかった。太郎も瞬も『祭典』を目指しているし、そこに手加減などあってはならない。
円もあくまで一職員だ。
薄々蒼也はわかっている、だが、諦めることができない。円も太郎も瞬も好きだ。
だからこそ、苦しんだ。
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