第2話 伊勢海老

とある海沿いの温泉地に友達5人と行った時の事。


温泉を満喫し夕食の時間になり、部屋食だったので次々と海の幸が運び込まれてきた。


大きな舟盛りが運び込まれた時、部屋は最高の盛り上がりを見せた。

写真撮影に余念のない3人が興奮している。

上下左右に向きを変えながら

「いや〜!いい!キレイ!」

「ピチピチだねぇ!」

挙句の果てには私に

「ごめん!鯛のシッポ、もう少し角度付けてくれる?」

とポーズを変えさせる始末。


私は思った。


(どっかで見たことあると思ったら、昔バラエティでやってたシロウトさんのグラドル撮影会だった!どうみてもマニアにしか見えないカメラ小僧の集まりにそっくりだ。いや、オヤジっぽいかも、むしろ。)


思っただけで口にらだすのは止めた。

ささやかな友情ってやつである。


撮影会が落ち着き、暫くすると料理人が伊勢海老と七輪を持って入ってきた。

みんな盛り上がる。

カメラも当然構えて料理人のお仕事を余す事なく捉える為に立ち上がり周りを囲み始めた。


まな板に伊勢海老が乗せられ、包丁はかまえられた。

「ザリッ!ブツッ!」

伊勢海老は真っ二つになる。

そして真っ赤に起こされた炭の上に載せられた網に置かれた。

真っ二つになりながらも、焼かれて伊勢海老は手足をジタバタと動かし始めた。


私は感謝した。残念ながら伊勢海老の命を頂く事よりも思った事はこうだった。


(生まれ変わる時は伊勢海老は止めとこう。あ、鮑もだめだ。カニもだな?3つとも活け造りはおろか生きたまま真っ二つにされたり、手足をもがれたりするもん。あと茹でられたり焼かれたり大変だ。良かった〜、人間で。)


因みにカメラを構えていた友人達は早々に撮影戦意を喪失していた。

さすがにビビってしまったらしい。


でも伊勢海老は美味しく私達のお腹におさまった。

人間の食欲は時としてほんの少しのショックは越えていくものだと感じ、だから食物連鎖の頂点に立てているのだろう。

まぁ、じっさいは素手では勝てない生き物はいっぱいいるのだが。

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