小話
晴れて結婚を前提にしたお友達? になった私達は、連絡先の交換をしました。
メッセージアプリなるもののIDを聞かれましたが、私はガラケーなわけで……。
「ごめんなさい……!」
「メールするから」
司君が苦笑しています。
恥ずかしい……スマホ買おうかな。
「ところで、それ何?」
「あ」
司君が指さしているのは私のガラケーの小さな画面。
待ち受けを見られてしまいました。
「サスペンスドラマのポスターで……好きなんです」
ひろ君に見られたときも恥ずかしかったけれど、今はもっと恥ずかしいです。
「それ、原作は小説だよね」
「はい」
「読んだことある。面白かった」
まさか司君が『検察官・夜明』を知っているとは……!
嬉しくて、私はテンションが上がってしまいました。
「ですよね! もう夜明検事が格好良くて! 大好きなんですっ!」
ああ、本が読みたくなってきました。
テレビも見たいです。
帰ったら録画してるものを見ようっと。
「?」
夜明検事に想いを馳せていて、気がつくのが遅くなりましたが、司君がジーッと私の顔を見ていました。
何?
「俺のことは好きですか」
「え」
「大好きって言われたことない。『大嫌い』はあるけど……」
後半は、拗ねた様子で独り言のようにぽつりと零しました。
『大嫌い』と言ってしまったこと、結構根に持っているのですね……。
「えーと……言ってないかもしれないけれど、そう思ってますよ」
「ちゃんと言って」
「えー……」
あえて口にするのがとても恥ずかしいです。
司君が私に言わせようとしているこの状況も耐えられません。
ジーッと見られても、言えないんだから!
段々顔が熱くなってくたのが分かりました。
「二人の時にやってくれませんかねえ!」
ひろ君が呆れた様子で吐き捨てました。
今は私と司君、ひろ君と香奈ちゃんの四人で、昼休憩を屋上で過ごしているところでした。
「ごめんなさい!」
「羨ましいなら、お前もやれば?」
司君がどこか勝ち誇ったような表情でひろ君を挑発しました。
ひろ君が苛々しているのが分かります。
この顔、私もちょっと腹が立つなあ……。
ひろ君は苛々としつつも、ちらりと横に座る香奈ちゃんに目を向けました。
「何見てるのよ」
「いや、その……」
そしてバッサリと斬られました。
ひろ君、頑張って!
※※※
夜の十時過ぎ。
お風呂に入り、歯磨きも済ませ、寝る準備をすませました。
これからベッドに転がって、眠くなるまで読書タイムです。
私の至福の一時です。
『検察官・夜明』の最新作を手に取り、表紙を捲ったところで、メールの着信音が。
誰だろう?
差出人を見て、自然と顔が緩みました。
司君です。
メールの内容は短い一文でした。
『何をしてた?』
すぐに返信画面を開き、入力……送信っと。
『本を読んでいました。司君は?』
返事はすぐに返ってきました。
『勉強』
『偉いですね』
『検事って結構難しそうだから』
ん?
検事になりたいの?
結構どころか、とても難しいと思いますが……本気なの?
『検事になるんですか?』
『なったら大好きって言ってくれる?』
それは、私が昼間に夜明検事を大好きだと言ったからでしょうか。
えー……どう返したらいいのでしょう!?
返信に迷っていると、また司君からメールが来ました。
『駄目ですか』
駄目っていうか、別に検事にならなくても……。
『ならなくても言います』
そう書いて送りました。
ちょっとドキドキしています。
いざ言わなきゃいけなくなると、きっと恥ずかしくなるだろうし……。
!?
音が鳴ったのでメールが返ってきたのかと思いきや、今度は電話がかかってきました。
電話は初めてです。
少し緊張しながら通話ボタンを押しました。
「も、もしもし」
『言って?』
えーっと?
出てすぐに言われた言葉に戸惑いました。
『大好き』を、今言えってこと!?
『あ、待って。……録音ってどうやるんだったかな』
ええ!?
『待って』と言った後のは恐らく独り言でしたが、聞き逃せませんでした。
しないで!
絶対しないで!
そんなことを録音されていると分かったら、私は羞恥死してしまう……!
「言いません!」
『なんで?』
「録音されたら嫌だから」
『しないよ?』
その割には、ガサガサしている音が聞こえてきますけど……録音ボタンを探してません?
「ちゃんと顔を見て、二人きりの時に言います」
言うなら、ちゃんと言いたいです。
録音されていないことも確かめたいし。
『……今から行く』
そんな、急過ぎます。
時計を見ると、もう少しで十一時でした。
「駄目です」
『五分だけでいいから……』
「駄目です。もう遅い時間ですから、外に出ると危ないですよ」
『大丈夫。今なら俺、無敵な気がする』
「駄目です」
『……分かった。我慢する。今から楽しみにしてる。やばい……眠れない……』
そんなに楽しみにされてしまったら、緊張してしまいます。
私も眠れなくなっちゃう。
「ちゃんと寝てくださいね」
『分かった。一花も』
「はい。おやすみなさい」
『やばい……おやすみなさいって言われた……テンション上がって眠れない……』
「寝てください!」
結局日付が変わっても話は終わらず……。
翌日寝不足で、少しうとうとしながら『大好き』を言うことになりました。
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