第17話
「ショウちゃああああん! 会いたかったよおおおお!」
休みの日、カラオケに行った四人で遊びに行くことになりました。
集合場所は家から一番近い駅。
カラオケに行った日、目的地として目指していたコンビニがあるあの駅です。
今全員が揃ったところなのですが、駅の構内に安土君の歓喜の雄叫びが響いています。
通る人がこちらを見ています。
安土君、恥ずかしいから止めて!
草加君からの連絡で集まったのですが、これは翔ちゃんと何か仕組んでいる気配がします。
翔ちゃんは今日も完全美少女に変身しています。
でも何処か機嫌が悪そうです。
「うるさいなあ」
翔ちゃんに会えるということで、テンションの上がった安土君が煩いことが原因なのでしょうか。
今も腕を掴もうとしている安土君を巧みなフットワークでかわしています。
ボクサーのようだ……。
私も翔ちゃんの手で今風バージョンになっています。
草加君が私だと分かっている上でお洒落をするのは、『気合を入れている』、『張り切っている』と思われそうで以前より一段と恥ずかしいです。
翔ちゃんに『誰もそんなに一花のことを気にしてない』と素敵な笑顔で言われて納得しましたが、恥ずかしいものは恥ずかしいです。
「やっぱそっちの方がいいじゃん」
草加君は待ち合わせの場所で顔を合わせてすぐ、見慣れてきた人懐っこい笑顔でそう言ってくれました。
嬉しいですがやっぱり恥ずかしいです。
前回は制服だったので、草加君と安土君の私服を見たのは初めてです。
二人ともお洒落で格好良いです。
草加君は、ネイビーパーカーにクロップドパンツ。
首にはいつものヘッドフォンがあります。
これがないと駄目なのでしょうか。
安土君は、青のチェックシャツにデニムアンクルパンツのアメカジスタイルに、腕やら首につけた小物がどことなくチャラさを匂わせています……。
「とりあえず、飯食おうぜ」
集合時間はちょうどお昼頃。
一緒にご飯を食べようと事前に話していたので、草加君の案内で近くにあるファミリーレストランに向かいました。
※※※
「ああもう……うっざい!」
翔ちゃんが怒っています。
翔ちゃんの隣を陣取った安土君が腕がつきそうなほど詰めより、延々と話しかけています。
確かにこれは鬱陶しそう。
二対二で向かい合う四人席だったので、私の隣には草加君が座っています。
ちらりと横に目を向けるとメニューで顔を隠していますが、悪い笑みを浮かべて前方の二人を見ていました。
草加君が楽しそうで、とても黒いです……。
「悪い、メニュー独占してたな」
草加君が顔を隠す盾にしていたメニューを一緒に見ることが出来るようにテーブルに置いてくれました。
何にしようかな。
メニューに顔を近づけると草加君と近くなっていたので慌てて離れました。
「ショウちゃん、おれ達も一緒に見よ」
「いい。もう決めてるから」
「ええ、何にするの? おれ、同じの頼む」
ああ……翔ちゃんが苛立っているのが分かります。
漫画でいうと、頭に怒りマークが入っている状態です。
草加君、盾が無くなったから笑うのは我慢して!
「ウーロンは何にすんの? これとか?」
そう言って指差した先にあったのは、サバの味噌煮定食でした。
美味しそうですけど……私はそういうイメージですか?
「どうしてそう思うのですか?」
「えっ? なんか渋いところにいくじゃん、いつも。パスタって感じじゃないっしょ?」
渋いですか……反論出来ません。
「……それにします」
「ほら、当たりじゃん」
なんでしょう、無性に苛っとしてしまいました。
それぞれ頼んだものが揃い、食事を始めても安土君がひたすら翔ちゃんに絡んでいくという光景と、薄ら笑いを浮かべる草加君がいるだけで、私にとっては落ち着かない時間でした。
そろそろ翔ちゃんは『帰る』と言いだしそうです。
もしくはつけたウィッグをテーブルに叩きつけて『いい加減男だって分かれよ!』と叫ぶかもしれません。
その場面を『ちょっと見てみたい』と思ってしまう私も黒いですね。
「買い物行きたい」
食べ終わり、もう解散なのかなと思っていると、翔ちゃんがカフェモカを飲みながら呟きました。
この近くには大型スーパーがあります。
横にも縦にも大きなビルで、広いワンフロアが全てレディースファッションになっています。
その中に翔ちゃんがよく行くショップがいくつかあります。
恐らくそこに行きたいのでしょう。
「じゃあ、おれは荷物持つ!」
私は特に欲しいものは無いけれど本屋に行きたいな、なんて思っていると……。
「んじゃオレはウーロンとカラオケに行く」
「ええ!?」
草加君が驚きの言葉を吐きました。
皆で一緒に行くんじゃないの!?
これも何か作戦なのでしょうか。
「やった! ショウちゃんと二人きりでデート! ま、そっちはそっちで楽しんで?」
楽しめません!
何か事情があることは察しましたが、翔ちゃん以外の人と二人きりだなんて!
私を置いて皆は席を立ち、会計を済ませました。
私は最後に会計を済ませて外に出ると、翔ちゃんはもう買い物に行こうとしていました。
「んじゃ、一花をよろしく」
「おう、そっちも」
翔ちゃんと草加君は短い会話をすると、別れて進み始めました。
翔ちゃん、置いていかないで!
追いかけようとしましたが、こちらを振り返った安土君と目が合いました。
『邪魔すんな』
目がそう言っています。
うう……翔ちゃんを安土君に取られてしまいました……!
「いくぞ、ウーロン!」
ウーロンはそろそろ止めてください……。
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