王様の旋律

星 霄華

序章

「ところで君は、ここがどこなのか知っているかな」


 降りしきる雨以外のもので冷たく凍えた贅沢な部屋で、執務机に相応しい椅子に座る青年が悠然と問うと、机越しに彼と対峙する少女の顔に見えていた苛立ちが増した。


「……砦ですね。騎士団の本部の」

「そう。そしてその団長である私には、当然ながら騎士団に自由に指示できる権限がある」

「…………何が言いたいんですか」


 押し殺した声で少女が問うと、青年は勝ち誇った顔をした。


「君や君の周囲の人間を、通り魔の関係者、あるいは他の事件の犯人として逮捕することもできるということだよ」

「っ!」


 人の上に立ち、民を守る立場にある者とは到底思えない科白に、少女は絶句した。開いた目と口が塞がらなかった。


 この男は、人の上に立ち、民を守る地位と身分でありながら、悪評に事欠かない。機嫌を損ねた貴族や侍従、使用人を何人もクビにしているし、自分の意に添わなかった下級貴族の娘を自殺未遂へ追いやった疑惑さえある。庶民の小娘を脅迫するくらい、何とも思っていないに違いない。


 卑劣な男だと知ってはいたが、これがこの国の未来を支えるべき第二王子、都の治安を守る赤竜騎士団の長であることがいまだに信じがたい。少女は、改めて憤らずにいられなかった。


「卑怯者! それで王族だの騎士団長だの、よく名乗ってられますね!」

「口を慎んだほうがいい。私が誰なのか、忘れたのかい? こうして君が対等に口を利いていられるのも、私の心が広いからだと忘れないでほしいね」


 先ほどまでの不機嫌さはどこかへやって、青年は少女の罵倒をせせら笑う。完全に自分が上位に立ったと確信してだ。それが一層腹立たしく、少女は怒鳴りたい衝動を必死に抑えなければならなかった。

 拳を握りしめて深呼吸をし、気を落ち着かせた少女は青年を睨みつけた。彼に従わなければならないことが、悔しくてならなかった。

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