第27話 カブトムシ
ずいぶん間が空いた。
初見の人には『ハァ?』だろうが、前項『ヤシガニ』からこの『カブトムシ』を書く間に、一ヶ月の間があったのだ。
その間、べつに創作をサボっていたわけではない。執筆仲間のお誘いで、とある電子書籍のキャンペーンに応募してみることにしたのである。
しかし、お題が苦手な『ファンタジー』であったため、とにかく手こずった。
どうもやはり、『世界の構築』というのが性に合わないらしい。
「こういう世界だとすると、じゃあ太陽はどうなってんだ? なんで夜になる?」
とか
「こんなモンスターがいるなら、それの普段食ってる生物が必要だよな」
とか
「いやいや、亜人種が混在してたら文化的な相違でこんな平和的には共存できんだろ」
とか考えてしまい、それを繕うために必死で理屈を考えてしまう。結果、説明の多いよく分からん文章になってしまって、ごっそり削除する、の繰り返しになるからだ。
そんなんで、ここ二ヶ月ほどかかりっきりだったのだが、「もうそういうのには目ぇつぶってやっちまおう」って姿勢になって、ようやく形になりかけてきた。
で、そろそろ息抜きも必要だ、ということで、少しそっちをサボってこっちを書こうと思い立ったわけだ。
さて、今年も夏が終わった。
それどころか、もう秋風が吹く季節となってしまったというのにこのテーマ。
何故かと言えば、今年はなんというか、俺にとってはカブトムシイヤーであったからだ。
じいさんの住んでいた空き家にあるシラカシの木には、例年樹液が出てヒラタクワガタやカブトムシが飛来するのだが、今年は天候が良かったのか、六月の初め頃から妙にカブトムシが多かった。
そしてそのまま、七月、八月を迎えてもカブトムシの姿は絶えることがなかった。わざわざ飼育するまでもなく、庭で樹液に集まる光景を堪能できるなどというのは、かなりな贅沢であると思うのだが、むろんやって来るのはカブトやクワガタだけではなく、ハエやアリ、スズメバチなども見られるから、これらを嫌う人にとっては困ったことなのかも知れない。
飼育しなくても、と書いたが飼育しなかったわけではなく、今年も例年通り飼育した。
昨年からの幼虫もいたし、蛾目的の灯火採集にやって来た立派な個体もキープした。
特に、お盆過ぎの灯火採集にやって来た素晴らしく立派な角を持つオス三匹は、九月の半ば頃まで生きていた。
べつに飼い方が特別上手いわけではなくとも、ちょっとした工夫でカブトムシは長生きする。記録では十二月まで生きていたってのがあるはずだ。だから九月くらいではそう自慢も出来ないのだが、普通に水分を保持して、普通に昆虫ゼリーをやって、普通に冷暗所で飼っていれば野生よりは長く生きるものだ。
とはいえ、そうやってちゃんと飼育していてもすぐ死ぬヤツは死ぬ。
では何故、そうやって長生きするヤツがいるのかというと、生まれてきた目的を果たしていなかったからであろう。つまり、次世代を残していない……平たく言えば童貞だったのだろう、と思われる。
長生きした彼等を捕獲したのは、八月も半ば過ぎのことだった。
息子の自由研究のために、某里山のふもとで
自由研究の対象は「蛾」であったから、カブトムシはどうでもよかったのだが、どう見てもギネス級のオスばかりである。コイツらの血を残せば、もっともっとでかいオスを作り出せるのではないか、と思わず捕獲して持ち帰ったのであった。
だが、帰ってみるとキープしていたメス個体は既にすべて産卵のためにマットに潜りっぱなし。それまでに捕獲した、あるいは昨年とれた幼虫から羽化したオス達と、とっくに交尾済みだったわけだ。
そのメス達より先にオスは死んでいたし、仕方なしにそのまま彼等を飼い始めた。
そして前述の通り、ヤツらは九月の声を聞いても元気に生き続け、半ばを過ぎてようやく力尽きた。
交尾が終わって役目を終えれば、オスは大概メスより先に死んでいくものだ。
それがいつまでも生きていたということは、やはり、俺のところにいた三匹は童貞だったのではないか、と思うのだ。
ここからは推測に過ぎないが、これはカブトムシたちのサイズに関係するのではないかと思う。
つまり、こういうことだ。
小さい個体ほど、蛹化も早い。それに蛹の中で体ができるのも早い。これは飼育していると、実感としてある現象だ。
メスは角がないから、当然早く体が出来るので、早い時期から現れている。感覚で言うと半月くらいか。
実際、シーズン初期つまり七月の初め頃には、樹液に集まっているのは小型オスとメスばかりだったのが、夏が深まるにつれてオスのサイズがアップしてくるように思う。
カブトムシのメスは、出来るだけ立派な角のオスを選ぶことが分かっているが、そもそも羽化していなければ選びようがない。
そこでさっさと、手の早くて角の小さいオスに貞操を捧げてしまうわけだ。
角の大きなオスが満を持して羽化してきた時には、あのコはすでに角の小さなオス達にやられてしまった後……なんと悲しい話であろうか。
むろん、遅れて羽化してくる大きめの身持ちの堅いメスもいて、中ぐらいの大きさのオスにはちょうど良い相手となるわけだが、特大オスの出てくる頃にはもうメスはほとんどいないのではないか。
この説を裏付けるかのように、八月の最終日に庭の樹液場を見ると、俺のキープしている三匹に劣らない巨大なオスが、たった一匹で餌場を守っていた。来るはずのないメスを待って……
単純に考えて、オスはでかければでかいほど配偶相手探しには有利なはずなのに、何故、遺伝子的にどんどんでかくなっていってしまわないのか不思議だったが、この辺にも理由の一端があるのかも知れない。
むろん、でかいほどカラスやキツネ、タヌキ、人間のガキといった天敵に見つかりやすいというリスクが増えるのも、理由の一つだろうとは思うが。
もう何が言いたいかお分かりであろう。
好きなコがいるのに、いつまでも遠くから見ているだけだったり、「俺はこれから本気出す」とか言って、何歳になっても充電期間を続けたりする男達よ。
そんなコトしている間に、角の小さなオス達にあのコは盗られてしまうのだ。
角なんかそんなにでかくなくてもいい。さっさと脱皮してアタックあるのみである。
ところで、カブトムシをちゃんと飼っているはずなのにすぐ死ぬとお嘆きの貴兄。オスカブトを死なせないコツはただ一つ。オス同士同じケージに入れないこと、これに尽きる。
やつら、狭い場所では殺し合うのだ。あんな角で想像できないかも知れないが、大角と小角で挟み殺す。殺傷力はクワガタ以上である。
樹液場での観察も、オス同士やVSクワガタの戦いが一番熱い。樹液場が広いとオス同士ケンカもせずに樹液を吸っていることもないではないが、そこにメスがいると、一気にヒートアップする。
下の繁みに、敗者の死体が転がっていることもままある。背中に大きな穴を開けて……
それほどまでに彼等は、必死にメスを求めているのだ。
べつに殺し合うひつようはないが、人間もこの気合いくらいは見習いたいものだな。
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