ダンゴムシ魂

はくたく

第1話 ダンゴムシの誓い

 生き物飼育エッセイを書こう。

 俺は唐突にそう思い立った。困ったのはタイトルだが、ふと思いついた言葉をそのまま使ってみた。


 ダンゴムシは日の当たる場所には出られない。

 何故なら、すぐに乾いて死んでしまうからだ。だが、彼等はきっとチョウやトンボが羨ましいワケじゃない。石の下が心地良いからそこにいるのだろう。

 地べたを蠢き、腐植質を食い、コンクリからカルシウムを摂取し、変な微生物に性別までも操られ……それでもダンゴムシは繁栄する。

 彼等の本質がフロンティア精神であることを知る者は少ない。

 よく見かけるオカダンゴムシは外来種。

 故郷はヨーロッパ。地球の裏側から遙々渡ってきて、そして瞬く間に日本中の石の下を支配下に置いた。

 それどころではない。先祖はもっと凄いことをやってのけた。

 ダンゴムシは甲殻類。

 先祖は海の中に住んでいたのだ。陸に上がり、水中でも湿地でも地中でもなく、普通に暮らしている甲殻類は、ほとんど例がない。

 このネット小説界で、俺はダンゴムシだ。

 才気溢れる、前途洋々の若者ひしめくこのネット小説界で、俺のようなオッサンが、

 文系能力が問われるこのネット小説界で、理系出身者の俺が、

 転生ファンタジー全盛のこのネット小説界で、こともあろうに生物エッセイを書く、という時点でもう、陸に上がった甲殻類、地球の裏側から来た外来種だ。

 だがそんな俺だから、生き物を飼ってきた自分の経験を書くことにしたといっても、モフモフ系ではない。

 うぞうぞ系、ヌルヌル系、ブンブン系が主。この時点でもう底辺決定だが、俺には他にネタはない。

 エッセイなんてものは、経験を書くモノ。つまり自分を切り売りしていく以外にない。

 だが、ダンゴムシを…………なめるな。

 いつか、世界中の石の下に住んでみせる。

 そういう気概も空回りするのがダンゴムシ。


 生暖かい目で見守るがよい。

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