Scene17 空に向かう黄色のベクトル

東京・神宮外苑


日本でも有数のイチョウ並木。

大勢の観光客が訪れ

イチョウ祭りが開催され

ドラマや映画のロケにも頻繁に登場する。


青山通りから神宮外苑まで。

片側3車線の道路の奥に石造りの絵画館。

ここの舗道の両側にイチョウが立ち並ぶ。

その舗道が車線を挟んでいる。

この並木道を横切る青山通りの横断歩道から見渡すと

4列に整列したイチョウの樹々。


並木道を歩いたなら、

山吹色のアーケード。

鬱金うこん色のカーペット。

わずかに覗く細い空。

陽を受ける葉はゴールデンイエロー。


春の終わり、夏の始まる前に芽吹いた小さな浅緑の葉は、

梅雨のころに萌黄色となり

夏の陽ざしを浴びて若竹色へ

雲の位置が高くなる頃に緑青ろくしょう色、

そして秋が進むごとに深緑色、

それから……

それ自身の最期の力を振り絞り、渾身の黄色へと姿を変える。

それは秋の終わりを彩るように。

そして冬の訪れを知らせるように。


この並木のそばには多くのスポーツ施設がある。

秩父宮ラグビー場

神宮球場

そして今は解体されている国立競技場

多くのスポーツ少年少女の憧れの競技場。


イチョウの樹は上を向いている。

樹の形がベクトルのように空を向いている。

恐らくは

夜ともなればそのベクトルは天空を目指す。

上を目指している。

上昇気質のイチョウの樹。


やがてその鮮やかな色の葉は地上へと舞い降りるが

樹自体は来年のために力をたくわえながら冬を過ごす。

春を迎え、また芽吹くために。


ここのイチョウは特に上を指しているように見えてならない。

陽の光を浴びて

上を目指し輝いて

また次の季節に備える。


今日より明日

今年より来年



そんな風にいられたらと思う。



【描写した場所】

日本・東京都・神宮外苑イチョウ並木

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