Scene3 ブルーの空を飛ぶ船
旅行会社のパックツアーに参加してノルウェーを訪れた。
恐らくツアー中のハイライトといってもいいのが、このフィヨルドクルーズだったと思う。
フィヨルドとは氷河が岩山を削り、複雑な高低差のある地形にしたあとに近くから海水が入り込み出来上がった入江、湾のことである。
同じく氷河が岩山を削りとっても、近くに海のないスイスでは世界有数の山岳地帯となった。近くに海があるノルウェーでは入り江になったということらしい。
そのフィヨルドは世界的にも有名で全長が200㎞もあるそう。
その一部を観光船でクルーズした。日本でもよく見かける遊覧船タイプの船である。時間は1〜2時間だっただろうか。
季節は秋。オスロの街は黄葉で色づいていたけれど、こちらの空気はすでに日本人の感じる冬のものだった。細い入り江の両側は山である。空は明るい昼間の時間帯だが、両側の山が直射日光を遮っている。それから入江自体が1000mほどの深さがあるという。その海面から何百mか上にそびえる山々。
「緯度が高いから森林限界点も低いんですよ」
と同行の添乗員さんが説明してくれたような気がする。
船の側面のデッキに立つ。目線の高さの山には針葉樹とおぼしき樹が見られるが、そこから視線を上に向けていくと樹がなくなり、植物もなくなり、岩肌を剥きだした山がそこにはある。
ところどころに小さな集落がある。まるでドールハウスのような可愛らしい色とりどりの屋根の家が数件ずつ点在している。羊ものどかに草を食んでいる。
観光船なのでゆったりとした速度で船は狭い入り江を進む。海からはかなり離れているので、波はない。寒い北欧の北風の中、それでもこの景色を楽しみたいので、防寒対策をしっかりして船のデッキでクルーズを楽しんでいた。
そのころだろうか。デッキのあちこちでどよめきが聞こえ始めた。何事かと周りの人を見る。さすがに世界的観光地なのでさまざまな国の観光客がそこにはいる。どこの国の人かわからないが、ほら見てごらん! と海面を指さしてくれた。
あたりまえだが、フィヨルドクルーズなので、私達の船は海面に浮かんでいるのである。それがその光景を見たとたん宙に浮く感覚に襲われたのだ。そう船ごと
波がなく透明度の高い海面が鏡になっている。目前の山が逆さに映っているのだ。その景色は私達の船の下まで。陸地から手前へと鏡の海面に視線を走らせる。濃い緑からグレーがかった針葉樹は色はそのままに濃緑やグレーの樹として逆さに生えている。森林限界点あたりの淡い緑の植物もそのままの色で、むき出しの岩山もこげ茶のグラデーションで映しだされている。
そして岩山の先、私達の船の下は空だ。北欧の澄んだブルーの空だ。ところどころに雲も浮かんでいる。
ふわっと。どう表現したらいいのだろう。鋼鉄の船が浮かんでいる感覚なのである。飛行機のようにスピードを上げて離陸する感覚ではない。遊園地の乗り物が空中に浮かぶ感覚の方がまだ近いかもしれない。私達は船に乗って
言葉を失うほどの絶景とはこういう景色を言うのかもしれない。その奇跡のような景色は随分と長い時間楽しむことができた。海面だけを写真に撮った。帰国して焼き増ししたその写真は上下を逆さにすれば普通の岩山と空を撮った風景にしか見えない。これが水面に映った景色だと誰が思うだろう。
それほどの一点の曇りもさざ波もない見事な鏡面だった。
外国のガイドさんが興奮気味に話している。こんな絶景1年に1回あるかどうかの現象だと。
奇跡の絶景に感謝。
【描写した場所】
ノルウェー・ソグネフィヨルドにて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます