Scene2 白光色に輝く夕陽
神々の島、インドネシア・バリ島。
世界的なリゾート地である。ハイグレードなホテルがいくつもある。海辺もいい。山間部もいい。そしてここにはここにしかない独特の世界がある。バリ・ヒンズー教に基づくバリ舞踏やアートの数々。この島の至るところで毎日のように伝統的な
バリ島の南部、ウルワツ寺院。西側を海に面した断崖絶壁の上にこのお寺はある。ここで有名なバリ舞踏のひとつである”ケチャダンス”を見ることができる。上演時間は夕暮れの時間。
そう、ここバリ島は夕陽の島だとも私は思う。
有名なビーチリゾートが西に海を臨んでいるので、自然と海に沈む夕陽が楽しめる。ビーチ沿いの高級ホテルで、リーズナブルなビーチでいただくシーフードバーベキューを楽しみながら、真っ赤に落ちていく夕陽を楽しむことができる。
ここウルワツ寺院のケチャダンスは屋外で行われる。
木製の階段状になった観客用のスタンドが海に向かって半円状に設置されている。海が西側なので西日が眩しいが、不快な蒸し暑さはない。乾季の心地よい風が時折観客の間を通り抜けていく。
ガイドさんのおススメの席に腰を下ろすと、スタンドの前は石畳の舞台。そのまま目線を先に向けると舞台の先は切り立った崖。目線の高さには水平線を挟んで空と海が広がる。
続々と観光客は集まり、数百人は収容できるかと思われるスタンドが埋まり、予定時刻にケチャダンスのショーが始まった。古いヒンズーの古典のお話をたどりながら舞台は進んでいく。
息をのむ。舞台ではラブストーリーを男女のダンサーが踊りで表現している。そのふたりのバックに夕陽が沈んでいく。
夕陽が白いのだ。
白い太陽が光を発しているのだ。
まるでその命を燃やすかのように。
いや、踊っているふたりのダンサーのための照明なのかもしれない。
周りの観客からも感嘆の声が漏れる。
白く白く輝く太陽。
太陽に照らされる海はシャンパンカラーだ。
太陽を映している鏡の海に光の道ができる。
時間にして10分ほどだろうか。
神々しい太陽は私達に惜しまれながら海の向こうに沈んでいった。
あっという間に暗闇が空と海を支配する。
舞台のラブストーリーでは女が連れ去られ、男が女を助けに行こうとする。
暗闇の舞台で炎が赤々と燃え上がる。
今度は炎のみが照明となり、物語はすすむ。
いわゆるケチャダンスが始まる。舞台装置の役目も担う大勢のケチャダンスの踊り手たちが物語を盛り上げる。男は敵と戦いながら敵地へと赴く。
漆黒の海と濃紺の空を背景にダンスと物語は展開されていく。
エンディングは男が女を助け出し、ハッピーエンドを迎えた。
多くのかがり火がたかれる中でのカーテンコールだった。
日没の時間を計算し尽くしたショーだったのである。
ふたりの幸せな光景を明るい夕暮れの時間に見せて、陽が暮れて夜陰に紛れるころにふたりは引き離されるのである。そして暗闇の中をたいまつをかかげて愛する人を助けに行くのである。
素晴らしい演出だった。
私はバリ・ヒンズー教に詳しくないが、あの夕暮れの光景には神様はいらっしゃると思えた。思わず手を合わせたくなる有難みがあった。
息をのんだ白光色に輝いたあの日の夕陽だった。
【描写した場所】
インドネシア・バリ島 ウルワツ寺院にて
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