distance end
彼が、昨日は久々にすごく燃えた、と言う。
僕はあらかた決まった返事を予想しながら聞く。
「何が?」
彼は深く聞いてもいないのにベラベラと喋りだす。
本当に人ってのはよくしゃべる生き物だ。
「実は、昔つきあってた彼女がレイプされた事があったんだ。そん時に、僕は聞いてしまったんだよ『その時濡れたかい?』って。当然それでお別れさ。『最低!』とだけ言われたよ」
彼が少し得意げな、独特の嫌な目つきで笑う。
僕はなるだけそれを見ぬように煙草に火をつける。
「その話を昨日、今付き合ってる彼女にしてみたんだね。『僕はその時勃起していた、僕はそんな変態ヤローだぜ、いいのかい?』って。僕は正直今の彼女に飽きていたし、嫌われてもいいような気持ちで。そしたら彼女、こう言うんだぜ『変ね、私も濡れているって事は変態かしら?』」
僕は久々にもの凄く腹が立った。
なんだか解からない感情が煙以上に肺を一杯にムカつかせた。
彼は、恋愛やセックスなんて心理ゲームだと言う。
実際、僕もその辺は否定しない、と言うかできない。
すべては、思い込みなのだ。崩れるまでは気付かない思い込み。
ただ、僕がやるせなかったのは、あまりにも無垢なその距離の終わりで、人って、実際にふりかからない恐怖には興奮するものなのだ。
僕に唯一理解できない感情で、しかしそれは世を支配している感情でもある。
猫を屋上から放り落とす、犬の目を潰す、意味のない純粋な悪意。そしてそれを笑う人々。
そんな時、寒気と言うか、とんでもなくこめかみのあたりの神経が痛んで、人でなくなりたくなる。
見渡せば、あちらこちらにそんな悪意まみれで、それは他の行為(例えばセックス)なんかより純粋で、まるで自然に行われてる事が多い。「いじめ」なんかもそう。異様に純粋に笑ってる。
平和や退屈や平等意識が生んだ、時代のコンプレックスだなんだと学者の答えは必要ない。
僕は、純粋に、そういうものは嫌いだし、許さない。
人類を常に進化させたものがエロとグロであり、その融合こそが罪と罰にはある。
それを安全なところから見る者のなんと残酷かつ純粋な事よ。
それは、まるで子供が蟻の巣をご丁寧に水責め等で潰すかのような世界。例えるなら、戦争の写真を写真家の意図とは逆さまに興味本位で手にして語る大人達を見ているかのように、何もかもが萎える、何もかもが嘘に見える。
その日、家に帰ると、彼女はいつものように待っていた。
「何時やと思っとんよ」
ふいに、彼女を押し倒したい衝動にかられる。
「また何かに影響されてきたんか。あんたほんまアホやな。口酒くっさ。寝るで、歯ぁ磨いてきーや」
あの頃、常識や良識はそこにだけ在った。僕はただ、一生愛せそうな気がしていた。
以前彼女がバイト先で店長に襲われた時、僕はそいつを半殺しにしようとした。
「あんたな、うちが大事なんか?あんたのモノが大事なんか?ヤルならヤルでまず、それハッキリしぃや」
さすがに僕の惚れる女と言うのは、気の強さが半端では無い。
「どっちもじゃ、うるさい、黙っとれ」
そう啖呵切ったものの、その言葉の意味の深さに僕は奴をヤリ損なった。
損をするのは、結局いつも強い人間。
得をするのは悪い人間。
喜ぶのは間接的傍観者である。
それが、僕の短い人生での人間観察した考察である。
これからも戦争の映像なんかがバンバンTVで流れるであろう。
知識人、良識人が何を言おうとも、そんなモノには目を背けようと思っている。
僕はいつも、損をしそうな人間を好きになる。
そんな女が好きなのか?愛したらそんな女なのか?
とにかく、強い女性だ。
「おかしい、どこが間違えてる?」
「どこかが間違えてるね」
「いやむしろ、間違えてないところがどこだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます