【第四章 或祖輩令有罪者 要約】
(第173話~第236話まで)
重婚は婚姻無効。
婚姻無効だから、子は非嫡出子。
行政判断、これを破らなければならない。
だが何度法律をたどってみても、同じだ。
行政判断通りに、婚姻無効でZは非嫡出子となる。
おかしい、民法なら重婚では親子関係は切れない。
中国法でも、重婚で婚姻無効になったからといって、親子関係は切れはしない。
なのになぜ、渉外婚姻では、親子関係が切れるのか?。
論理が、閉じていない。
直感は
何かが、「Zはお前の子だ」 ─脳内で
狂気の法理 ─ 「重婚は、婚姻無効ではない」
論理が導く仮説 ─ 「XはTの妻で、ZはTの子である」
自分は狂っているのか?
構うまい、このまま脳が破壊しても構うまい、考えろ、考え続けろ─
行政判断、閉じていない論理、ならば破るのは決して不可能では無いはずだ。
Tの見出した奇策。
それは行政判断の原因となる “重婚” を消し去る手続きだった。
XとTの婚姻が、重婚の後婚。
茨城県のM氏と、Xとの婚姻が前婚だが、それはXが不法滞在で強制送還となる直前に届出された偽装結婚。
重婚は婚姻無効、重婚だからXとTの婚姻は、婚姻無効で消え去る。
だが、前婚を、「婚姻する意思の不在」で無効化すれば、後婚は有効となる。
そうすれば、戸籍訂正許可が受理可能となるはずだ。
素人考えの、法手続き。
家庭裁判所に出向き、XとTは、そんな手続きが可能なのものか訊ねてみた。
家庭裁判所の書記官は言った。
「法的には可能ですね、ただ、
最終的な判断は、やはり裁判官に依りますよ」
そして、申し立ての説明を続けながら、意外な事を言った。
「婚姻無なら離婚は出来ませんよ、
婚姻ではありませんから」
婚姻無効は、離婚出来ない?
おかしい、Tの脳裡に疑問が湧き上がる。
それはおかしい。
確か、中国法の婚姻無効は、離婚出来たはずだ。
民法の婚姻無効は婚姻ではない。 だから離婚は出来ない。
ならば、離婚が出来る中国法の婚姻無効は、婚姻だとでもいうのか?
それは狂気の法理、論理が導く有り得ないはずの仮説と符合する。
「XはTの妻で、ZはTの子である」
「重婚は、婚姻無効では無い」
書記官の言葉に、Tは中国婚姻法を何度も何度も読み返す。
重婚は婚姻無効原因の筆頭だ。
だが重婚は、同時に裁判離婚の事由の筆頭にもなっている。
「婚姻無効は離婚出来ません」、書記官の言葉。
ならば何故、中国の婚姻無効は離婚出来るのだ?
ネットの中文ページを漁り、中国婚姻法の解説を読み漁る。
そして、事実婚に行き着いた。
日本では内縁関係を指して、事実婚と呼んでいる。
だが論理は結論付けた。
「事実婚は、婚姻である」
「内縁関係は、婚姻ではない」
それは何を意味しているのか?
事実婚とは、内縁関係ではなかったのか?
TはXに問いかける、「中国では、
Xは言った。
「あるよ、事実婚が普通なんじゃない
結婚は、事実婚が普通
結婚と言ったら、事実婚よ」
脳内で火花が散り、論理が閉じた。
結婚とは、市役所に婚姻届けを出す事だと思っていた。
違うのだ。
日本人には想起し得ない命題。
「 婚姻とは即ち、事実婚! 」
事実婚とは、「成立して効力の無い婚姻」なのか。
それなら奇妙奇天烈な中国婚姻法が読み解ける。
(注:内縁関係は「婚姻の成立が無く、効力も無い関係」)
中国婚姻法に、奇妙な点など何もなかった。
先に(法律外で結婚式等により)婚姻が成立する。ここで事実婚が発生。
その発生した事実婚が婚姻実質要件(法定の婚姻条件)に適合していれば、登記により婚姻効力が発生する。
婚姻効力の発生。この段階で、法律婚が生成する。
つまり、事実婚が、登記により、法律婚になる、それだけだ。
婚姻実質要件に違反していた場合に、発生した婚姻効力が遡及して消滅する、それが中国法の婚姻無効だ。
今度は逆に、法律婚が、婚姻無効の審判により、事実婚になるのだ。
そして、発生したり消滅したりするのは“婚姻効力”、即ち「夫婦間の権利義務関係」。
親子関係には及ばない。
そもそも、親子関係は婚姻効力ではない。
だから、中国法では、婚姻無効後も「子はなお父母双方の子」なのだ。
中国婚姻法の婚姻無効では、審判後も親子関係の有る事を、説明付ける事が出来た。
だが、これだけではダメだ。
通則法により、日本人側の親(父)と子の親子関係は、民法で判断されるからだ。
だから、問題の所在は、民法側に在る事になる。
重婚に中国法婚姻無効を適用したら、婚姻は法律婚から事実婚に遷移する。
つまり、法律婚から婚姻効力が消失して、「成立して効力の無い婚姻」となる。
民法の嫡出推定は、どう規定している?
民法 第772条
「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は・・・」
民法は、“婚姻中”を「婚姻の成立」と規定している。
中国法婚姻無効の審判宣告後は、婚姻は「成立して効力の無い婚姻」になる。
即ち、「婚姻無効で、子は嫡出子」。
嫡出推定には、そう、明記してあった。
いや、まてよ?
ならば、何故、行政判断では、「子は非嫡出子」になる?
なぜ、法律家どもは、口を揃えて、「Zは非嫡出子の中国籍」と言える?
このケースで、「子は非嫡出子」で有るためには、
「親子関係は婚姻効力」でなければならない。
実は、「親子関係は、婚姻効力」なのか!
ネットに質問をupする。
並行して、民法の婚姻効力を確認する。
民法第4編(親族)第2章(婚姻)の第2節(婚姻の効力)に
規定する婚姻効力:
(1) 夫婦同氏(750条)
(2) 生存配偶者復氏(751条)
(3) 同居協力相互扶助義務(752条)
(4) 成年擬制(753条)
(5) 夫婦間契約取消権(754条)
以上の5項と、第3節の夫婦財産制。
やはりそうだ、
ネットにupした質問は形を変えて複数個有るが、総合すると次のようになる。
「婚姻は届出により成立するが、違法で有る場合は、婚姻効力が無い
婚姻無効では初期から婚姻効力が無いから子は嫡出子
婚姻取り消しは将来効なので、子は嫡出子と解釈される」
やはりか、法律上は「親子関係は婚姻効力ではない」のに、法解釈では「親子関係は婚姻効力」とされている。
実際の規定と、その解釈の
ここに、法解釈のミスが有るわけだ。
それに、「違法な場合は、婚姻効力が無い」?
確かに、婚姻の取り消しではそうなる。
婚姻の取り消しは、違法な婚姻に掛かっている。
しかし、民法の婚姻無効原因は、「婚姻する意思の不在」と「無届け」だ。
民法で、禁止されている婚姻、を再度確認してみる。
やはりか。
「婚姻する意思の不在」と「無届け」は、民法で禁止された婚姻ではない。
とすると、民法の婚姻無効が「全て無効」である理由は、違法だからではない事になる。
これは、法解釈の言う、「違法な婚姻に効力が無いから嫡出子ではない」という説明に反する。
ここにも、「法解釈のミス」が有る。
実際の規定と
大変な事が解ってしまった。
法律上は「Zは嫡出子」なのに、法解釈で「Zは非嫡出子」にされてしまうという事だ。 「法解釈にミスが有る」、もしもそんな事を直に申し立てて、家庭裁判所は聞くか?
聞きはしない。
ミスの有る法解釈がそのまま適用されて、こんな主張は、棄却されて終わりだ。
ならば、どうすれば、いいのだ?
Tは新たな難題に悩むことになった。
そんな時、Xは、茨城県のM氏と連絡を取る事に成功した。
Xは、M氏と面会するために、茨城県に向かった。
喫茶店でM氏は、当時Xが不法就労していた頃の同僚の中国人女性を呼び出した。
その中国人女性は、既に日本人の旦那さんと結婚して、適法に在留していた。
その女性は、旦那さんを伴って現れた。
そして、その旦那さんが顧問弁護士に連絡を取り、指示を仰いだ。
「Zの身分を護るためには、
XとM氏の婚姻を無効にするしかない」
旦那さんの顧問弁護士は、そう結論付けた。
その判断を受け、M氏は全員から説得を受ける事になってしまった。
だが既に、初めからM氏は決断していた。
そうしてM氏は、Xとの婚姻を、婚姻無効確認訴訟で消除する事に同意した。
遂に
戸籍裁判に向けて動き始めるR行政書士。
Tは思い悩む。
裁判所を逃がしてはならない。
一気に徹底的に追い詰めて、「Xは妻でZは子」だと、認めさせなければならない。
如何にすれば、素人が、裁判所を追い詰める事などできるのだ?
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