ディストピア編 戴冠石④
神王を片手で制したスカハサはすかさず補足する。
「ああ、誤解しないでくださいね。この〝戴冠石〟がディストピアを選んだということはありません。もしもそうなら厳重に封印する理由がありません」
「………む。それはそうだ」
「となると〝戴冠石〟を封印していた理由は一つ。この〝戴冠石〟に選ばれる者が、ディストピアにとって都合の悪い存在だったということになります」
全員の顔つきが鋭くなる。
確かにその理由ならば、〝戴冠石〟を封印していた理由にも合点がいく。
今まで正体不明のまま影すら踏ませなかった魔王だが、此処に来て漸く手がかりらしきものに指先が触れた。
神王は机の上で両手を組み、クロアやアイラたちを見てニヤリと笑う。
「如何やらお前たちに会いに来たのは正解だったようだな。もしその話が本当なら、この〝戴冠石〟は対ディストピアの切り札になりうる。よくぞ俺たちに話してくれた。礼を言うぞ、ケルトの戦士よ」
「身に余るお言葉です。ですがその言葉はまだ早計かと。まずは〝戴冠石〟の呪いを解ける者、或いは呪いをかけた者を探し出すのが先決です」
「キハハ!! 加えて言うと人探しにも時間はかけられねえぞ! 奴らの侵攻速度は尋常じゃねえ。そっちにも手を打たねえとオチオチ人探しもできやしねえ!」
「安心しろ。それについては既に手を打ってある」
「奴ら何を血迷ったのか、神王様を含めた〝天部〟の神々に対話を持ち掛けてきたんすよ。その条件として、三カ月の停戦を持ち掛けている最中なんす」
ああん? と、クロアが訝るように声を上げた。
今まであらゆる敵対者を葬ってきたディストピアが、此処に来て対話を望んできた。しかも戦況は敵の方が有利であるにも関わらずだ。
此れを疑うなというのがおかしい。
「おいおい、大丈夫なのかその話。罠にしか見えねえぞ」
「俺も時間を稼げればいいという程度の認識だったが、先ほど毘沙門天の遣いがきた。ディストピアは正式に俺たちの申し出を受け入れたらしい」
神王の報告に目を剥くクロアだったが、箱庭で交わされた約定を破ることは何者にも出来ることではない。
此れで神王たちは〝戴冠石〟について調べる時間を手に入れたことになる。
「ははあ………奴ら此処に来て遂に悪手を打ったってわけか。俺たちにも運が向いてきたって考えていいんじゃねえか?」
「そんな簡単な話じゃないと思うけど、都合がいいのは確かね。―――それで、今後の方針はどうしますか?」
「そうだな………まずは〝戴冠石〟の伝承に詳しい者に話を聞きたいところだが、宛てはあるか?」
神王の問いに、スカハサはゆっくりと首を振る。
「申し訳ありません。私たちエリンの戦士は既に壊滅状態。〝戴冠石〟について詳しくしるドルイドたちがどれだけ生き残っているものか………」
難しい顔で首を横に振るスカハサ。
だがその時―――
〝戴冠石〟の亀裂をジッと見つめていた金糸雀が、小さく呟いた。
「………先生。エリンの魔法使いたちは絶滅したかもしれませんけど………もしかしたら、エリンの外に生き残りがいるかもしれません」
「え?」
「先生は、〝エリンの女王〟―――初代メイヴの年代的相違について知っていますか?」
金糸雀の質問に要領を得ないまま頷くスカハサ。
此れは神王がアイラから聞いた話と同じ類のものだろう。
本来実在した時代と伝承の年代が合わないことを指摘する金糸雀。
「実を言うと、年代的相違があっても実在を成立させる方法があるんです。あんまりにも簡単なことだから、先生たちも見落としていることだと思うんですけどね」
指先をピンと立てて、推理を開始する。
彼女は自分の推理―――〝エリンの魔法使いの生き残り〟と、〝年代的相違〟について語り始めた。
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