神王VS戦神⑬ 解答編
金糸雀が魔神の
①邪悪なる巨人が、他民族の侵略を受けた先住民であるという事実。
②邪悪なる巨人が、他民族を併合し文明交流を行っていたという歴史。
③邪悪なる魔王が、一族を滅ぼすはずの姫殿下を殺さずに幽閉したという伝承。
とりわけ③は、伝承で語られている『邪悪な巨人の一族』という行動原理に輪をかけて違和感が感じられる。
スカハサ師と魔神が戦いを始めた当初、彼はこう口にしていた。
『自分は愛娘を溺愛していた。故に娘を幽閉したのだ』、と。
文面に明記されてはいないが、魔神バロールが愛娘を幽閉することになった理由はケルト神話の伝承にて語られている。
それが『魔神バロールの娘は、フォモール一族を滅ぼす子供を産み落とす』という予言である。
率直に述べると、魔神バロールの孫が一族を滅ぼすという伝承だ。
魔神バロールの系統は愛娘一人しかおらず、必然的にその娘の子がバロールを滅ぼすという結論が導き出された。
魔神の娘は哀れにも孤島の塔に幽閉され、使用人は全て女性を遣わされた。
父以外の異性を知らず、恋を知らず、無垢なままの姫殿下。
典型的な囚われの姫として、英雄が助けるべき吾人ではあるのだが―――
此処で一つ、疑問が生まれる。
後代の語り部による肉付けを段階ごとにそぎ落として、事実だけを晒してみよう。
邪悪なる巨人族、フォモールの魔王。
彼は哀れな姫君を幽閉し、恋をする機会すら奪った。
巨人族、フォモールの王。
彼は姫君を幽閉し、異性と触れる機会と引き換えに生を得た。
極西の先住民、その王。
彼は姫君を幽閉し、一族破滅の予言を防ぎ―――同時に、姫君を守ろうとしたのではないか―――と。
古代ケルトに於いて、予言者の予言はある種の神性さえ帯び絶対視されていた。
その予言者が一族の破滅を口にしたのなら、どのような手段を用いても防ごうとするはずだ。
端的に告げると、家臣団から姫君の殺害を忠言されたはずなのだ。
にもかかわらず、巨人の王は姫君を幽閉するに留めた。
彼は破滅の予言を受けたにも拘らず―――愛娘を、殺せなかったのだ。
加えてこの伝承の違和感には続きがある。
予言の中核である王の孫息子。
フォモール族を滅ぼす運命の子。
後の太陽神ルーは魔神に殺害されそうになるも、不確実な方法を用いられている。
似通った伝承を持つ他神話と比較してみても、その違いは明らかだ。
ギリシャ神話の大神クロノスや、主神ゼウスは己の息子を丸飲み込むという確殺の方法を用いているにも関わらず、魔神バロールは孫を川に流すという不確実な方法を用いた。
剣で首を刎ねることもできた。
槍で心の臓を突くこともできた。
杭で貫き火炙りにして姫君の元に忍び込んだ悪漢に見せしめることもできた。
示威というのなら、其れこそその死の瞳を開いて殺して見せることもできたはず。にもかかわらず、彼は『川に流す』という不確定な方法を取った。
誰かが助けることを知っていたかのように。
誰かが助けることを願っていたかのように。
一族の廃滅を、運命という秤に彼は託したのではないか―――?
「……………」
―――さあ、ワードは揃った。
最新の詩人の語る神話を以って、悪辣なる詩人たちの呪いを解こう。
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