神王VS戦神⑩
窮地に陥ったのは神王よりもむしろ、地上で縛られていたスカハサだった。黒煙は風に吹かれながら急速に大地を覆い初めている。
横たわっていたスカハサは急いで立ち上がった。しかしその途端、両手を縛る蔦の魔術が急速に全身を覆い始めたのだ。
「………あ、やばい。これ死んだかも」
スカハサは死んだ片手を庇いながら横に倒れた。蔦は拘束する力を強めて強めて宿主を絞め殺そうと襲い掛かる。此れはいよいよ進退窮まったかと覚悟を決めた時―――黒煙と蔦を切り払うように、神王の金剛杵と稲妻が降り注いだ。
「娘よ、無事か!?」
「あら、娘なんて歳じゃないですよ私」
「よし、軽口を叩けるようなら無事だな!! 今からアイラに拾わせる!」
「それもありがたいですが、先に拾い物があります。少しお待ちを神王陛下」
スカハサは残った衣服を破り、軽く胸元を縛って隠した。気を取り直して髪をかき揚げた彼女は、魔神の襲撃から守っていた場所に向けて疾走する。
彼女が背後に庇っていた位置より僅か後ろにあった雑木林。
その木陰に手を伸ばすと、スカハサは柔らかく笑いかけた。
「いい子にしてた? 金糸雀」
「はい、先生」
ひょこり、と亜麻色の髪が揺れて顔を出す。年齢は十三歳といったところか。この異常事態にも堪えている様子が無い辺りに精神的な強さを思わせる。
同時にこの周囲を守っていた影が揺れ蠢いてから収束し、影絵の魔物となる。
燕尾服の形になった魔物は茶化すように哄笑をあげた。
「キハハハ!! いやあ、あぶねえあぶねえ!! 今回ばかりはもうだめかと思ったぜ!! いざと成ったら懐柔策としてバロールの爺に混ざり俺様もスカハサとギッコンバッタンするしかねえかと、」
「てい」
グシャァ!!
「ギャアアア!! お、俺様のゴールデンマグナムが!!!」
「馬鹿言ってる場合じゃないでしょ。窮地はまだ続いてるわ。油断しないでクロア」
「わ、わかってるっての………! オルフェウスは!?」
「神王と共に上空よ。私たちも拾ってもらって一度退きましょう」
スカハサは上空を見上げて神王に合図を送る。
象王の雲が長鼻を伸ばしてスカハサたちを迎えに行く。黒煙は風に吹かれて広がっているだけらしく象王を追走する様子はない。
長鼻にスカハサとクロアが乗り込む中………亜麻色の髪の少女の目の前に、ヒラリと一枚の黒い羊皮紙が舞い落ちた。
「………? 先生、なんですかこれ」
「〝契約書類〟よ。この事態の元凶。この間教えたでしょう?」
「でも黒いですよ?」
スカハサは緊急の最中ではあったが、少女の質問に柔らかく答える。
「魔王の〝契約書類〟はね。例外なく黒に染まるのよ。彼らの〝契約書類〟は神々のそれと違って法則や秩序、歴史に反したものとして描かれる。その黒い羊皮紙はその証ってことね」
さ、乗りなさい。と言って手を伸ばす。しかし金糸雀はスカハサを見上げる事無く食い入るように〝契約書類〟を見ていた。
三度反芻して〝契約書類〟を読み直した金糸雀は、黒煙の中心を見てふむと考える。
「………四回の侵略………歴史………偏見無き瞳………つまり求められているのは第三者の視点? それなら私にも解ける………?」
「………金糸雀?」
「先生。このゲーム、私がチャレンジしてもいいですか?」
金糸雀と呼ばれた少女が右手を挙げて進言する。
スカハサと燕尾服の魔物は同時に驚きの声を上げた。
「ば、馬鹿か! 修行中のお前なんかが解けるわけ、」
「クロア、黙って。………金糸雀。勝算は?」
スカハサは先ほどまでの柔らかい笑みを消して金糸雀に問う。
幾分以上に厳しい問いに、金糸雀は強気な瞳を浮かべてハッキリと答えた。
「大丈夫です。このゲームでケルト最強の魔神様―――いえ。
最古のケルトの王の真意。私が解き明かして見せます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます