彼女の人格が一つじゃなかった件

第7話 問うに落ちずに恋に落ちる

 多重人格というのがある。この呼び方は俗称で、本来の病名は解離性同一性障害という。まさか自分が実際に目にすることになるとは思わなかった。解離の症状も人それぞれ異なるので、私が書いたことが多重人格の全てではないし、他の解離の人はまた違う症状が出ることも踏まえて読んで欲しい。それから、リアルバレを恐れて名前は全部変えるしところどころフェイクも入れとくのでご承知おきを。


 彼女との出会いはネットだった。これまでにもウルティマオンラインというMMORPGで人生の一部を無駄に消費した事はあったが、その時のギルドのメンバーに誘われて始めたFPSも完全にはまってしまって、上手くもないのに毎晩午前2時3時までにゲームをしてたことがあった。一度は抜け出せたものの、仕事が一区切りついた時に始めたFPSで誘われるままクランに入ってしまい、数千時間をこのゲームに費やすことになった。彼女はそのクランの主力メンバーの妹だった。


 彼女の名前はチカという。もちろんゲームの中ではハンドルネームを名乗っていた。クランではSkypeやmumbleで連絡を取り合っていたが、たまにおふざけでstickamで配信をすることがあった。stickamっていうのはツイキャスやニコ生みたいなもので、カメラを使って生配信ができる。当時ネットラジオをやったり某サイトでstickam配信してた俺は、バンダナにサングラスで顔出し配信してた。クランには酔っ払って顔出し配信するちょっと頭が残念な超イケメンがいて、俺と彼はstickamでもよく絡んでた。他のクランメンバーに顔出し要求したり、本名で雑談トークしたり、FPS以外でも仲良く遊んでいた。チカはその中の紅一点だった。


 出会った時は大学一年生だった。その時の俺の年齢は内緒である。チカはとても恥ずかしがり屋で、顔出しを嫌がる姿がそれはもう可愛くて可愛くて、どんどんイジってるうちに完全に好きになってしまった。チカの方はというとstickamでの配信で俺のことを好きになっていてくれていたらしくて、その内二人きりでskypeすることが多くなり、惚れたのはれたの言うような話も出るようになり、リアルで会う前にskypeエッチするような関係になる。どうでもいいことだが、前出の頭が残念なイケメンくん、頭が残念じゃなかったら絶対に俺が惚れられることはなかったと思う、というくらい格好よかった。


 なかなかリアルで会えなかったのは遠距離だったからだ。俺は東京、彼女は大阪、行こうと思えばすぐ行ける距離だけど、大阪まで行って日帰りももったい無いので泊まりの旅行日程を組むことになる。出会えない系サイトで障害があれば24hいつでもケータイに電話かかってきて障害対応しないといけない俺には色々と準備が必要だった。ノートPC買って環境作ったりとか。まあそんなことは読者の誰も興味ないと思うので置いといて、リアルで大阪まで会いに行ってちゃんと付き合おうということになった。この時は何も変わったことはなかった(変わったプレイはしたけど)。


 今度は彼女が東京に来てくれることになった。池袋にある喫茶店で話をしていた時、彼女の携帯がなった。彼女は一瞬青ざめた顔をしてトイレに行った。しばらくして帰ってきたけど、なんか彼女の挙動が怪しい。とても挙動不審な感じだ。聞けば電話してきたのは元彼だという。色々聞いてもよく覚えてないとい言うしとてつもなく怪しい。skypeしてる時に話は聞いていたのだが、元彼はよりを戻そうとよく電話をかけてくるらしい。それどころか、家に押しかけてきて窓をノックすることもあるようだし、場合によっては部屋に上げているようだ。なんだそりゃ?


 元彼から電話がかかってくると逃げるようにトイレに行って、戻ってきたら挙動不審って明らかに怪しいし、元彼とまだそういう関係なんじゃないかと俺が疑うのも至極当然だと思う。これは気分が悪いことだとはっきり伝えると、彼女はこういった。

「今度ちゃんと説明するから。前に言った心の病気とかに関係することだから。」

まあ説明するというの事で一旦引き下がった。東京滞在は一泊だったのでその日の夜はエッチなことをするだけで聞くタイミングがなかった。後日Skypeで聞いてみた。

「元彼から電話かかってきたときのこと、こないだ説明するって言ってたけど説明してもらっていいかな」

ここで予期しない返答が返ってきた。

「言いにくいんだけど、実は私の中に別の人格がいて、元彼への返事はその子がしてるからよく知らない」

返事を要約するとこんな感じだった。彼女は解離性同一性障害という病気で、俺が普段話しているチカとは別にミユキという人格がいる。元彼にチカが対応するとヨリを戻そうだの何だのとしつこい話の繰り返しになるので、ミユキが代わりに対応して元彼を諭しているというだ。いやいやいやいや、そんなこと言われてもいきなり全部は信じられないし、実はそのミユキが元彼といちゃいちゃしてるんじゃないのとか、全部作り話で元彼とまだ続いてるんじゃないかとか、そんな事を考えたりした。結果から言うとそんなことは全然なく、彼女はまったく嘘をついていなかった。ただ秘密にしていただけだ。ミユキの他にもまだ人格がいるということを。




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