ただの出会えない系サイトかと思ったら大間違いなんだからね!

第6話 下手なスパムも数撃ちゃ当たる

 ある日、たまにお世話になってるBさんからシステム構築の相談を受けた。知り合いの会社のシステムが拡張できなくて困っている、知人に会わせるから詳しく聞いて欲しい、という事だった。このお客さんというのは過去にツーショットダイアルでしこたま儲けたらしく、金は持ってるという話だった。そういえば前に、自社でやってる出会い系サイトが重くてしょうがないんだけど助けて欲しいって相談を受けた事がある。第一世代iMacで構築してたらしく、ちょっとカブれたシステム会社にあたっちゃったんだなと思ってた。その時はまとまった時間が取れなくて手伝えなかったんだ。俺はMacは好きだけど、当時仕事ではIAサーバーにSAN繋いでOracleでDB構築とかしてたので、Mac+FileMakerでWebアプリ作ってるって聞いてひっくり返った覚えがある。


 K県にあるオフィスへいった。担当者Hさんとはすぐ話が出来たが、オーナーのWさんは渋滞に巻き込まれて1時間ほど遅れて来た。Bさんからは「見た目は思いっきりヤクザだけどいい人だから」と言われていたけど、サングラスでもかけて無い限り普通に人の良さそうな叔父さんだった。日本語は上手。アクセントは中国訛りだけど、システムのことがよくわからないHさんよりよっぽど話が通じる。


 内容は「コミュニティサイト」、つまり「出会い系サイト」だと言う。会員数は1万人。有料サイトで1万人はかなり凄いはず。ガラケーの待ち受け画像サイトとか手伝ってた時には、内部関係者とか無理矢理登録させて盛りに盛って5千人も行けばいい方だった。思わず口に出た「え?1万人ですか!?凄いですね」 。WさんとHさんは何故か目を合わせて苦笑いしてる。ハードウェア構成は1万人にしてはちょっとショボイかなと思ったけど、hpのDL380とMSA500の構成を打診してみた。一式200万〜くらいだけど向こうにひっくり返られて、今は数万円の自作PCでやってるって事だった。まあハードで儲ける気はないからいいけど。


 出会い系のシステム構築し始めて、一番話が噛み合わなかったのが会員インポート機能だ。現行システムからの移行に使うという。そんな一回しか使わない機能、手動でコンバートするからこの機能外させてくれって何度も言ったんだがどうもこの機能にこだわる。むしろこの機能がキモだとまで言う。あ、だんだんわかってきたぞ。


 こいつは有料会員が1万人もいるような優良サイトではなくて、名簿屋から買った会員情報を流しこんで会員数万人に仕立てあげるシステムだ!。俺は金に成るならマルチの管理システムでもなんでも作ったるわと思ってたからやるけど。現行サイトは女性会員として登録しても男性会員から検索できない。これは客がテストのために女性として登録してクレームをつけてくることがあるから、検索できるようにして欲しいと言われた。出会えなかったら客が残らないんじゃないですか?って聞いたら、あまり出会わせないんだと。実会員同士が連絡を取っちゃったら直メールでやりとりしてポイント消費しないから、出会えないのがいいんだと。なるほど、ワルだね!


 程なくして(すったもんだあったけど)システムが完成して、ある程度稼働も落ち着いてきた頃、同一システムで見た目だけ変えたものをいくつか作らされた。どうやらクライアントがASPとしてさらに別の会社にシステムを外販しているらしい。トラブルがあったときなどは伝言ゲームで苦労が絶えなかった。有料出会いサイト、無料の客寄せサイト、そもそも出会いとして機能してないDM送信サイトなどがあった。有料出会いサイトの売上は、うまくいってるサイトでも月間数十万程度なんだが、1サイトだけずば抜けて売上の高いサイトがあった。毎月コンスタントに1000万以上売り上げて、多い時は2000万を超える。こんなことなら売上のパーセンテージで保守料貰えばよかったなあ。


 一体どうしてこのサイトだけこんなに売上があるのかと、ちょっとサイトのメールやりとりを覗き見して青ざめた。こいつらもう出会いなんて全然エサにしてない、初めから「あなたに1000万円当たりました。振込の手続きをするので合言葉'XXXX'を送信してください」などと言ってポイントを消費させてるだけだった。この頃はまだ男性向けが圧倒多数だった気がする。後に女性向けにジャニーズを騙ったり、占いサイトと称して幸福に成るための合言葉を連投させたり、そのうちエスカレートして金の単位は億になり、あからさまに「手続きのために○○円分ポイントを購入してください」という通知になっていく。


 このシステムは思いつかなかった。実はガラケーの待ち受け画像サイトやってた時もそうなんだけど、俺は基本的にケチなので「こんなのに金払う奴がいるか?いるわけねーだろ」と思ってしまう。こんなのに引っかかるやつがいるなんて信じられないのでビジネスにしようなんて思いもよらない。引っかかる人っていうのは本当に気の毒になるくらい頭が気の毒な人なので、「本当に振り込んでいただけるのでしょうか。子供のDSも売ってポイント買いました。振り込まれないともう本当に終わりです。」などと書き込んでいる。胸が痛んだ。というかこれは完全に詐欺の片棒を担いでるんじゃないだろうか。いやうちのクライアントはこのサイトの運営会社ではないし、契約上もうちは会員にメールを送れるシステムを作ってその対価をもらっているだけであって、運営者がどのような内容のメールを送るのかは関知しないので問題はない。実際トラブルがないとメッセージの内容なんて見ないし。マルチ商法のシステムでも作ったるわ!と思っていたもののそれよりもっと悪どい事になるとは思いもしなかった。


このやり方は客を殺すので長続きしない。このサイトも2年くらいしか持たなかったと思う。広告打つにもカネがかかるし、トータルでいくら儲けたのかは知らない。ただ太客をうまく長く転がしてる方が効率はいいだろう。実際元のクライアントが運用しているサイトは、こういった詐欺メッセージはなくいわゆる「会いたいけど会えない詐欺」だけでずっと続いてるし、売上も少しずつ伸びて毎月コンスタントに700万-800万あがってる。ああ、あやかりたい。


 Wさんの携帯番号末尾は0001、車のナンバーも「・・・1」。さすが縁起を重んじる中国人。この番号とるのにいくらかかるんだろうなあ。

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