第2話
賞を取った時は、今で思えば運が良かっただけかもしれない。
現に僕の小説は売れていなし、気紛れで覗いた某オンラインショップのレビューを見ると、星は少なくレビューも一件のみ。しかも、その内容は辛辣。
中古本を売っている本屋を覗けば、僕の本がありえない安さで売ってあった。
悲しくなった。僕の本を買ってくれた人間は、読み返す気もなくて安い値段で僕の本を売ったんだ。
時間をかけ、楽しみ、力を注いで作った僕の作品が、今はコイン一枚で買えてしまう。
現実は、厳しく辛く。
フリーターと呼ばれる人達の方が、よっぽど輝いて見えた。
ずっと家に閉じ籠って太陽の光をあまり浴びない僕の肌は、病人のように白く、不気味で。
夜、人気のない場所で僕が現れたら、見た人は幽霊だと騒ぐんじゃないか、と思った。
なんで、僕は小説家になったんだろう。もう、辞めたほうがいいんじゃないか。
そう思うが、小説に全てを注ぎ込んだ僕に、文章を書く意外の能なんて存在せず。
実家に帰ろうにも、でかい口を叩いて出てしまった手前、売れないから!と帰るのも、小さなプライドが許さない。
薄暗い狭い自室で、パソコンを前に椅子の上で体育座りをする僕。
その瞳から自然に浮かんで溢れる涙。
僕の世界は、綴る物語はつまらない。
面白いと思える作品は、なんなんだろう。
なんで僕はそれが書けないのだろう。
読者の君に問う。
面白い作品、お金を出して買いたいと思う作品、売りに出さず何度も読み返したくなる作品って、なんだ?
僕は、自分が面白いと思う作品を書いて売れなかった。面白い作品が、分からなくなってきたんだ。
けど読者によって面白いと思う作品なんて様々だ。 僕がつまらないと思う作品が、本屋ではかなり売れているように。
面白い作品。売れている作品。
より多くの人間が面白いと思う作品が、売れている作品なのだろう。
つまり、売れていない僕の作品は、沢山の人に読んでもらえたとしても、きっと面白い!と言ってくれる人が少ない、ということで。
それが、僕の悩みの種なんだろうな。
売れていない僕が売れている作品を読んで「つまらない」とほざくなんて。客観的に見たら、それはただの妬みや嫉妬でしかないのだろう。
だけど、君には伝えたい。
こんな僕の愚痴をまだ読んでくれている、優しい君には言いたい。
僕は、売れているからと言ってその作品が必ず面白い、なんて言わない。
売れている作品の全部が全部面白いなんて、あり得ない。
他の多くの人が面白いと絶賛しようが、僕が面白くないと感じれば、その作品は、売れてような売れてなかろうが、つまらないんだ。
売れている、ということは、あくまで自分が面白い!と思える可能性が高いだけで、100%面白いわけじゃない。
つまり何が言いたいかというと、僕は「売れているのだから、絶対に面白い」なんていう先入観を持っていないということ。
どれだけ沢山の人間がその作品を誉めようと、僕がつまらないと感じたら、たとえその著者が目の前にいたとしても、僕ははっきりと面白くないと告げるだろう。
売れている作家に嘘の称賛で媚を売ったところで、僕の本が売れるわけじゃないのだから。
称賛とは、嘘を含めば一気に価値が落ちるものだと信じている。
まあ、僕の感想なんて誰も求めていないんだろうけど。誉めたところで媚売り、批判しても嫉妬と勘違いされるに違いない。
僕は作家である前に読者でもあるのにね。
嗚呼、もうどうすればいいんだろうか。
売れる作品、面白い作品。考えても考えても、分からない。
まだ純粋に読者だった頃の自分が羨ましい。戻りたい。
文章を追い、物語に溺れ、世界を楽しんで、簡単に感想を口に出せた、あの時の自分に戻りたい。
友達はいた。僕と同じ本好きな奴が、数人いた。
文芸部員だって、仲間だった。文章を書くことに楽しみを見出した者同士、楽しかった。
だけど、大人に近づく度に、皆作家になる夢を手離した。
現実的じゃない。どうせ無理だ。もっと安定した仕事に就くんだ。……皆そう言って、原稿を、ペンを、下書きデータを捨てた。
僕だけは、辞めなかった。どうしても、小説家になりたかった。
僕から作品を奪ってしまったら、もうなにもない。空虚だ、存在価値がない。
だから賞を取った時は涙が出たし、紙になった自分の本に触れた時は、担当と一緒に飲み明かした。
幸せだった。夢心地だった。世界が輝いていた。
そう、数字を見るまでは。
低い数字。それは、僕の明るい世界を簡単に壊した。
担当は、皆最初はそんなものだと言ってくれたが、僕はそれでも悲しかった。
若くして作家デビューを果たしたからこそ、僕はまだ自分が天才だと思っていたから。
実際は年齢など関係ない。売れる作品を書いた者が有名となる。小説の帯に年齢が晒されるわけでもないし、若ければ若いほど有利というわけでもない。
読者が求めるには、年齢でも才能でもないなんでもない。
ただ、面白いか、否か。
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