第3話
ト「???えっ・・・?」
赤「俺らは人じゃねえけどな。あいつは喜んで俺たち仲間を削って、削って、削りまくって、そうして数えきれないほどの鉛筆たちを葬ってきたんだ。でもあいつは少しも悪いと思っちゃいない。なんせ、俺たちとは違うからな?そうやって、飄々と命を潰してきたんだ。」
ト「でも・・・それは、仕事じゃないですか?僕たちだって、削られないと次の仕事ができない・・・役に立たないじゃないですか?」
赤「じゃあ、仕事のためなら自分の命は捨てても構わねえって言うんだな?今あの図体のでけえクソご主人様が、『死ね』つったら死んでも良いってことだよな?」
ト「それは・・・ちょっと違う気が・・・。」
赤「違わねえんだよ!坊主、頭働いてっか?簡単に考えるとそういう事なんだよ。削の野郎は生きてる時点で俺たちの敵なんだぜ。」
ト「赤さんは・・・自分の命が惜しいんですか。」
赤「そうだよ、悪ぃか?生まれてきたからにはとことん生きてえよ!それが当たり前だろうが。おめえはどうなんだよ!?」
ト「僕は・・・真っ当に生きれるなら・・・命は・・・。」
赤「おめえの空っぽな理想なんざに興味はねえんだよ。要は敵か、味方かだろが!おめえ・・・わざわざ敵のもとに行ってへいこら頭を下げて、削られたあげくは50センチ下のゴミ箱にポイされる、そんなものが真っ当と言えんのか?それとも何か?おめえはそんな使い捨てでも別に何とも感じねえ根性の腐ったバカなのか?」
ト「そんなことは・・・ないです。」
赤「じゃあどっちなんだよ!!どっちか答えろよ!!」
ト「僕は・・・。」
赤「・・・チッ。人間め、もう帰ってきやがったか。おい、返事はここに戻ってくる頃には決めとけ。どっちがおめえにとって正しいのか、ようく考えておけよ。」
青「あいつ、相当へこんでたな」
赤「ククク・・・ああいう間抜けな真面目ちゃんはな、正しさやら真実やらを少し混ぜて、ちょっ とくすぐってやるだけですぐ悩みだすんだ。あともう一息だぜ・・・あいつを飼い馴らせば、他の奴らを引っ掻き回せる。ああいうタイプは一度決めたらとことん突き進むからな・・・きっとどろどろになるぜ。」
青「でもさあ、それに俺らも巻き込まれたら面倒じゃねえ?」
赤「そんなん、簡単だろう?終わる頃には俺らがまとめれば良い。邪魔になったら 奴を隙間に放り込んじまおう。そしたら俺たちゃ一躍、馬鹿共にとっての自己犠牲の英雄さまってわけよ。」
青「そうか、それもそうだな。まったく、使い捨ては便利だな!ぎゃははははっ!!」
赤「ククク・・・用無しには黙らせんのが一番だ。ところで何体目だったっけな?放り込みすぎて忘れちまったよ。」
(カリカリカリ、スーッ)
(ゴシ、ゴシゴシ、パッパッパッ)
ト(敵か、味方かなんて、そんな・・・なんで決めなくちゃいけない?それを決めないと、僕のこの削さんへの想いはまがい物だって言うのか?だけど、あの色鉛筆が言っていた事には間違いはなかった。なら僕がおかしいのか?一体、何なんだ・・・?ああ、よくわからない・・・。どうしようもなく削さんと話したい・・・笑顔を見たい・・・)
消しゴム(以降消)「どうした新入りさん?何かお悩みの様子だが。」
ト「あ・・・はい。すみません、自己紹介が・・・。」
消「ああいいよいいよ、キミの『活躍』は横目で観察してたからさ。俺は消。よろしく」
ト「・・・よろしく・・・お願いします・・・。」
消「しかし、なんだかずいぶんと面倒くさい事をしてるんだなぁ、君は。今まで変わり者は色々いたが、お前さんはそのトップ5に入るぜ。ケラケラ」
ト「・・・消さんも、色鉛筆のグループに?」
消「うんにゃ、わしはどっちでもないさ。元来面倒くさがりだからな、縛られんのは性に合わん。それに消耗品であれど、君たちとも違う種だしな。」
ト「なら・・・さっきの話とかはどうでしたか?」
消「ああ、今のね。まあ赤君の考え方もわからんではないがね。ただ、実経験を踏まえてみると・・・。」
ト「踏まえてみると・・・?」
消「うーん、まあ種が違うにせよ、考えがみんな同じになる訳ではないな。」
ト「???」
消「だからさ、わしも汚れを消すのが仕事だが、実際は面倒だからうまく消えてるように仕事をこなしたりしてんのよ。その方が寿命も長くなるしな。ああ、だから上手く言えんなあ・・・口下手なんでね。ケラケラ」
ト「えっと、それって・・・削さんは喜んで僕たちを削っているわけではないかもと・・・?」
消「あ、そうそうそうそう!それそれ、それが言いたかったんだな!」
ト「なるほど・・・。」
消「でな、実際それを確かめてみてからでも遅くはないんじゃないの?」
ト「そう・・・ですね。」
消「よし、じゃあ話してこい!」
ト「いっ、いや、今は仕事中ですから・・・!」
消「あ、そうだな・・・まあ夜に入ったから、殿様はそろそろ退社のお時間だ。あと良い事を教えてやろう。仕事上がりの際も殿様はほぼキミを削君の隣に置くぞ。」
ト「ほ、ホントですか?」
消「わしは嘘はつかん。間違えはするがな?ケラケラ」
ト「あ・・・ありがとうございます!!」
消「まあまあ直って直って。とにかく、その時にしっかり聞くんだな。」
ト「はい!!」
消「ついでに愛の告白もしてしまえ!」
ト「何を言ってるんですか!」
消「ケラケラ」
(ゴソゴソ)
ト(帰り準備をしているようだな・・・そしたら僕も・・・お、やった・・・!)
ト「・・・お疲れさまです。」
削「うん。・・・おつかれさま。」
ト「・・・?疲れて・・・ます?」
削「・・・まあ、一日中働き通しだしね。でもいつもこうだから、気にしないで?ところでト君は大丈夫なの?」
ト「僕は全然別に。(ほんとは今日1日、色々あり過ぎてヘトヘトだけど)」
削「そう・・・すごいね。」
ト「・・・・・・。」
削「・・・・・・。」
ト「・・・いつも、収納箱の中から誰もいない部屋を見てきましたが、働いたあとだと印象が違って見えます。」
削「・・・私はいきなり始まったからよくわからないけれど、いまト君の持ってる気持ちに近い気がする。」
ト「そうですか?」
削「うん・・・今この瞬間が1日のうちで一番好き。」
ト「・・・。」
削「何?」
ト「いえ、ほんと好きなんだなあって。今の削さん、すごく優しい顔ですよ。」
削「ふうん・・・まるでいつもは鬼の顔でもしているような物言いね?」
ト「い、いや、そういうものでは決して!えー、なんというか・・・仕事中はものすごく真剣な顔なので、ちょっと近寄りがたいと言いますか・・・。」
削「ふふっ・・・別に怒ってないわよ。」
ト「えっ・・・あ、はい。」
削「・・・・・・。」
ト(・・・言うしかないか。)
ト「あの・・・削さん。」
削「・・・ん?」
ト「一つ、聞きたい事があるんですけれど・・・いいですか?」
削「・・・・・・いいよ。」
ト「削さんて・・・仕事中は僕たちの相手をするわけですよね?」
削「そうね。」
ト「それに対して、何かしらの感情は覚えたりしないんですか?」
削「・・・感情?」
ト「ええ。」
削「今のって・・・最初に話した時に言ったはずじゃない?仕事だって。それとも、まだ気にしているの?」
ト「いえ・・・今回は違うんです。ええと、その、僕らを削って楽しい、とか・・・。」
削「・・・・・・楽しい?・・・私が?一体何のために?」
ト「え・・・違うん・・・。」
削「当前よ‼︎」
ト(ど・・・どうしたんだ?いつもは冷静な削さんが・・・。)
削「何が楽しいって言うの?仲間が、みんなが好きなのに、私はその寿命を縮める役目で、何が楽しいって言うのよ?貴方、考えた事ある?自分の親しい者を、この手にかけなければいけない私の気持ちが!!」
ト「すっ、すいません・・・でも、聞かなければならなかったのです!でないと、貴方を・・・。」
削「ごめん・・・もう寝ましょう?私、もう疲れたから・・・・・・。」
ト「・・・はい・・・。」
(朝)
(シャーーーーーー、シャーーーーーーーー、シャ、シャ)
定「ちょっとあんたさ、昨日削にとんでもない質問したんだって?」
ト「えっ・・・とんでもないって・・・削さんから聞いたんですか?」
定「聞いたよ、さっき!」
ト「でも・・・定さんとの約束はちゃんと守って・・・ますよ?」
定「確かに破ってないけどさ。でも、同じようなもんよ。全く・・・変な事思い出させちゃって・・・。」
ト「・・・何が、同じようなものなんです?」
定「・・・もうここまできているんだから、しょうがないか・・・。あのね、削は前に一度、キミのような鉛筆と好き合っていた事があんのよ。」
ト「ほ・・・ホントですか!?」
定「今更嘘いって何の得があんのよ・・・それが三年前の、今ぐらいの時期。あの子も相手の子もお互いが惹かれ合っていて、こっちの顔が紅くなるくらいのべったり具合だった。あの子もいつもは冷静だけど、この時ばかりは浮かれちゃっててね・・・でもね、すごい幸せそうだったのよ。」
ト「そうだったんだ・・・。」
定「話は終わりじゃないわよ。あとしょげた顔もしない!・・・ここからが本題なんだから。」
ト「はっ、はい・・・。」
定「ト君さ、昨日赤鉛筆たちからあの子が仕事をどう考えているのか、聞かされなかった?」
ト「ああ・・・はい。」
定「やっぱりね。じゃないとキミはあの子に言えるほど残酷にはなれないからね・・・まあ起こった事だし、もう仕方ない。それで話しの続きだけど、あの子、削も最初のうちは仕事の時も舞い上がっていたのよ。大好きな彼とつながる事ができるって。その時は本当に何も考えずに、その不思議な心地よさに酔いしれていただけらしかった。」
ト「その時・・・・・・?」
定「うん・・・でもね。そこからがあの子にとって、地獄だった。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます