第2話

(グッ・・・ヴーーーーーン)

ト「うっ・・・あの、削さん・・・。」

削「ごめん、今はダメ。暇じゃない。」

ト「あ、すいません・・・。」

削「ちょっと先端に集中してくれる?主は先が尖ってないと嫌なタイプだから。」

ト「うぁ・・・は、はい・・・。」


(ヴーーーーーン・・・・・・)

削「ありがとう。」

ト「い・・・・・・いえ、こんな事ぐらいでしたら全然問題ないですから!じゃあ、 またがんばって下さい!」

削「ふふっ・・・真っ赤な顔して無理言わなくていいのよ?・・・・・・まあ、 貴方もね。それと、あともう10分ほどで主が席を外すから、もしかしたらその時また話せるかも。」

ト「あ、はいっ!!!楽しみにしてます!」






男2「なあ、そろそろ休憩行く?」

男 「行きますか・・・ったく、全然仕事進まないよー。」

男2「あははっ、重いよなそれ。これは時間かかるよ。」

(コトッ・・・・・・ガチャ)


ト「・・・うまい具合に近くに来れましたね。」

削「席をはなれる時、主人はよく鉛筆を私の近くに置いたりするの。だからさっき話せるかもって言ったわけ。」

ト「なるほど・・・。そういえば、削さんはここにきてどの位になるんですか?」

削「どの位前からかな・・・・・・。まあ5年以上はいるわ。そうそう、さっき定と話してたでしょう?彼女も同じ時期にここに入ったのよ。」

ト「へえ・・・二人とも長いんですね。」 

削「そうね。」






削「ところで、色鉛筆たちとはどうだった?」

ト「まあ、はい。削さんの言っていた事は大体わかったような気がします。乱暴な連中ですね、あいつら。」

削「前の色鉛筆はあんな性格じゃなかったから、もっと皆で仲良くやれてたんだけど・・・。奴らに替わってからはここは殺伐としてるのよ。」

ト「前は違ったんですか・・・。」

削「基本的にみんな穏やかな性格なのよ。回転が激しい世界だから、できるだけ気まずいお別れはしたくはないの。だから他の色鉛筆たちもみんな一緒だって誤解し ないでね。」

ト「(回転か・・・)はい。」

削「最近では色鉛筆の出番がたまたま少ないってのも原因にあるのよね・・・。普段ならある程度すれば替わるはずなのに、ここにいる時間が延びていることで、彼らの地位が確立してきているの。」

ト「あの、でもそれなら、削さんや定さんや、他にももっと長い時間いる方々がたくさんいるのに・・・。誰か注意したりはしたんですか?」

削「言ったのよ。でも、聞かなかった。それにさっき言ったように、ここにいる物はほとんどは穏やかな性格の持ち主ばかりだから、争いごとは避けるようにして、今は時が過ぎるのを淡々と待っている状態・・・なのかな・・・。」

ト「すると色鉛筆たちがより上位であるかのように演じ始めてきたと・・・・・・?」

削「はいってくる新参者を次々と騙していってね。」

ト「なんか、想像していたよりもだいぶ重い雰囲気なんですね。箱の中から見てるだけでは全然気付きませんでした・・・。」

削「うん・・・。」






削「・・・ちょっと気まずい思いをさせちゃったわね。ごめんね、ト君?」

ト「い、いえ、そんなことは・・・!私、いえぼ、僕?は削さんと話せるだけでも全然楽しいので!」

削「・・・私と?」

ト「あっ!・・・いえっ‼︎あの(ばかっ!ここで下手なこと言っても場違いにしかならないぞ。しっかりしろ、自分!)えと・・・知らないものばかりなので、教えてもらえるのは楽しいな~、っと。はい。」

削「・・・ふうん?」

ト「な、何笑ってるんですか!?」

削「いや~・・・・・・本当にト君って面白いなあってね。」

ト「自覚はないんですけれど。・・・あの、ちなみに聞きたいんですが・・・先ほどの色鉛筆たちとの会話は聞こえてました?」

削「仕事中だったからわからなかったけど。なにかあった?」

ト「いえ、なら良いんです!」

削「聞かれたらまずい事でもあったの?」

ト「え!?いいえ!?・・・・・・何にもないですよ、ホントに。はい。」

削「クスクス・・・・・・まあ良いわ。ほら、主が帰ってきたわよ。また機会があれば話しましょう。」

ト「もうですか。早いですね・・・わかりました。それじゃあ・・・。」

ト(この彼女の笑顔をもう少し見ていたかったのにな・・・普段厳しい顔をしているだけに、これは危ない・・・・・・!)






(シャーーーーー、シュ、シュ・・・シャーーーーー)

定「・・・ト君、一つ確認したいんだけど、いい?」

ト「??・・・はい、どうぞ?」

定「ト君ってさ、削が好きなの?」


(バキン!)

定「あ。」

男「うぉっ!今のタイミングで折れんなよ!」

ト「ちょっと!いきなりびっくりするような事言わないで下さいよ定さん!!」

定「あははっ、ああ、ごめん。そこまで驚くとは思ってなかったから。くっ、くっく…またいってらっしゃ〜い。」

ト「もう・・・もー!」


(ヴーーーーーーーーン・・・・・・)

定「お帰り~♪」

ト「・・・。」

定「なに、怒ってんの?怒ってんの?」

ト「からかわないで下さい!あまり削さんの負担にはなりたくないんですからー!」

定「まあまあ若物よ、気を鎮めたまえ。」

ト「もう鎮まってます!!ったくもう、削さんも笑ってたし…うぅぅ。」

定「あはははっ!まあまあ・・・でさ、本当のところどうなの?」

ト「・・・答えなくてはいけないものなんですか?」

定「うん。重要。」

ト「ええっ・・・と、でも・・・。」

定「答えなさい。」

ト「・・・好き、ですよ・・・。」






定「・・・真剣に?」

ト「真剣に。」

定「だってキミ、削と会ってからまだ半日近くしか経ってないよね?それで真剣だって言うの?」

ト「・・・僕は、ここに来る前・・・収納箱に入っていた頃から、箱の隙間から削さんを見てきました。視界の端から見える削さんの姿、また仕事をする作業音を聞いてきた・・・次第に、自分の中でそのことが頭から離れなくなってきました。そして実際に顔を合わせ、話せるようになった時・・・削さんの笑顔を見て、もっと見たいと思うようになりました。もっと、もっと笑ってほしいと。 そして、気持ちを理解したいと・・・。」

定「・・・。」

ト「・・・ダメですか?こんなストーカーまがいになるほど、僕は削さんが好きなんです・・・。」

定「いや・・・別にストーカーとも言いがたいし、ト君は変わってはいるけど・・・悪い物ではなさそうだしね。そこはいいんだけど・・・。」






ト「・・・・・・?」

定「若すぎんのよ、考え方が。まだ。」

ト「・・・そりゃ僕は若いですよ・・・。ですけど、若さが何か障害になると言うんですか?」

定「怒らないで・・・ごめん、言い方が悪かった。・・・でもさ、今言ってもト君にはわかんないと思う。」

ト「若い・・・から?」

定「・・・そう。」

ト「わっ・・・わかんないって、そんなっ!僕だって好きで若いわけじゃないのに・・・っ‼︎」

定「・・・あのね、聞いて?それはト君に必ず訪れるものなのよ。大災害でも起こらない限り、ト君に 必ず訪れる。そしてキミは選ばなければならない・・・。だからお願い。 それまでは削に気持ちを伝えるのはやめてあげて。」

ト「・・・・・・え?」

定「キミなら聞いてくれるって信じているから言うの・・・お願い。」

ト「どうして・・・どうして定さんが僕の気持ちを抑える権利があるんですか?関係ないじゃないですか!?なんなんですか!!!?」

定「・・・あたしは・・・あの子の親友だからこそ、もう見たくないものもあるのよ・・・。」

ト「削さんの・・・?」

定「ごめん・・・。」

ト「・・・削さんのためなんですね?本当に?」

定「うん。この身をかけて誓うわ。」

ト「・・・・・・わかりました・・・。」






(シャーーーーー、シャーーーー、カリカリカリ、シャーーーーーー、)

ト(ダメだ・・・あの話の後だと、どうも気が休まらない・・・。定さんとも話をする気になれない・・・。)

定「・・・もう、私の作業は終わりそうだね・・・。じゃあ、また!」

ト「はい。」

定「おい、ト君‼︎」

ト「・・・はい?」

定「キミに暗い顔は似合わんぞ!その時になっても、キミがどっしり構えていれば何の問題もないんだ!あたしが言っているんだからそれは確かだぞ!」

ト「もう、都合のいい事言っちゃってー!すごい怖いんですからー!」

定「あははははっ!・・・まあ、その位明るい方がキミには良いと思うよ。削も心配するから、 まあ・・・頑張れ!」

ト「全く・・・優しいんだか厳しいんだかな・・・。ふっ、ははっ、あははははっ!まあ悩んでわかるほど頭は良くないしな。定さんの言う通りだ。」






ト(空も暗くなってきたな・・・そろそろ夜か・・・。)


男 「っっっあ~~~~疲れた~~~~!!なー!ちょっと一服しないー?」

男2「そ~う~、だね。んじゃあコーヒー買いに行くついでにでも。」


(コトリ)

ト(うわ、よりによって色鉛筆のところか!?クソッ・・・!)

赤「おう・・・やっと戻ってきたなあ、新米ちゃん?」

ト「・・・どうも。」

青「おめえがいなくて、俺ら寂しくて死にそうだったんだぜえ?」

赤「遅すぎなんだよ、バアカ。」

ト「・・・仕事ですから仕方ないですよ。」

青「ひゅう!何だその口の聞き方?おい赤よう、こいつ何時から俺らに減らず口叩けるような立場になったんだ?」

赤「さあてな・・・。」

青「・・・おい、聞けよ小僧。あんまり生意気いってっと、そこの隙間に突き落としちまうぞ?あそこに入ったら最後、机の板に挟まっちまうし、主からの死角になってっから見つけられる事もねえ。もう二度と日の出を見れなくなくなるんだよ、わかったか・・・あ?」

ト「・・・・・・。(あの机の板がはまりきっていない隙間のことか)」

赤「・・・青、おめえしゃべり過ぎだ。少し黙ってろ・・・なあ新米ちゃん。お前に一つ聞きてえんだが・・・どうしてあの削とかいう奴なんかの肩を持つんだ?」

ト「それは・・・。」






赤「定があいつを庇うのはわかんだよ。定と削は同期だしな。他の根性の腐った奴らだってそうだ・・・。だが、おめえは違うだろ?なんでだ?」

ト「それは・・・仕事の先輩であり、尊敬できる仲間だからです。」

青「はっっ!!おめえバカだろ!?同じ種でないもんに尊敬か!!ちっともわかってねえよ、ちっともよ!」

赤「黙ってろ、青!!邪魔すんじゃねえ!!」

青「クッ・・・こんな奴・・・早く隙間に放り込んでやりゃ良いんだ。」

ト「・・・質問を返すようですが、なら色鉛筆さんたちは何故削さんを毛嫌いするんですか?」

赤「ああ、おめえ丁度いい事聞いてくれたな。でもなぁ、それは少し考えるだけでわかるんだ。おめえの足りない頭でも、キュッと絞るだけですぐにわかる簡単な事なんだぜ?」

ト「・・・?わかりません。どういう事なのか教えて下さい。」

赤「・・・まあバカだもんな、仕方ないか。聞けよ?」

ト「・・・はい。」

赤「削が、殺人鬼だからだ。」

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