トンボ鉛筆がベタ惚れしたようです
かくぞう
第1話
登場キャラクター 略称一覧
トンボ鉛筆 ト
鉛筆削り 削
定規 定
消しゴム 消
色鉛筆(赤) 赤
色鉛筆(青) 青
持ち主 男
(カリカリカリ、シャーーッ、シャーーッ)
(サッサッ、ペラッ・・・、ゴシッ、ゴシゴシ、サッサッサッ)
(ヴーーーーン)
(ペラッ・・・ペラペラッ)
男「ん、もうダメか。じゃあ次のは・・・と(ゴソゴソ)」
トンボ鉛筆(以下ト)「・・・・・・。」
ト(やっと!!ずっと傍らから見ているしかなかったけれど・・・やっと今日、初めてこの窮屈な収納箱から飛び出し、あなたの前に出れる!ああ、なんてドキドキするんだ!鉛筆削りさん(以下削)に顔を合わせれるなんて・・・・・・!)
(コトリ)
ト「よしっ、出れた!出れたぞ!しかも削さんが目の前に・・・! あの緩やかな曲線、情熱的な赤い色に彩られた安定感のあるボディ、また それに反する可愛らしい・・・えー、ゲフンゲフン!! ま、まあ・・・やはり削さんは素晴らしい!ここは紳士的に挨拶をしなければ・・・・・・と貴様、な、何をする?」
男「~♪」
ト「や、やめろ!!そそんないきなり過ぎるじゃないか!削さん、これは誤解です! 私の意思ではないので・・・・・・ああ!」
削「・・・。」
(ヴーーーーーン)
ト(・・・さ・・・・・・最悪だ・・・しかし・・・これは・・・・・・)
(一時間後)
男「さて、昼飯でも食いにいくか」
ト(やっと終わった・・・何だ一体!?初対面の挨拶は一番肝心だというのに、 マナーも交えずあんな・・・ああくそう、思い出すだけでこの身体をへし折りたくなる!塗装が全て剥げ落ちたってここまで恥ずかしくなるものか!・・・・・・と、とにかく。先ほどのお詫びと挨拶だけはしておかないと・・・。今は削さんに持たれた印象を拭うチャンスだ。)
ト「あ・・・あのう。削さん?」
削「・・・。」
ト「あ、すみません。自己紹介がまだでしたよね。私はトンボ社からここへ転勤になりましたトンボ鉛筆という者です。名前はまあないんですけれども、皆同じように扱われていますので。」
削「・・・。」
ト「先ほどは挨拶もなしに、とんだ失礼をして申し訳ありませんでした。主人には伝えようとしたのですが、どうにも・・・え・・・・・・と、あの、削さんはいつ頃からこちらに?」
削「・・・。」
ト(やはりさっきのことで怒っているのか・・・?)
ト「あのう、怒って・・・・・・います・・・?」
削「・・・?どうして?」
ト「あ、いえ!先ほどのことで・・・。まあ、その初対面での挨拶もなしに突然の事だったので怒っているのでは・・・?と。」
削「・・・?」
ト「い、いえ、あれは決して自分の意志でないですよ!私は抵抗したんです‼︎けれど、 主の力には抗えず、結果的に・・・・・・その・・・でっ、ですから、あんな乱暴なのを私は望んでいなかったのです!もっと穏やかに紳士的な挨拶から始めたかった。そこはわかって頂きたいのです・・・。」
削「・・・っく。」
ト「・・・?」
削「ふふふっ。」
ト「な、なんですか?」
削「おかしい。ふふっ。」
ト「へ?」
削「だってそう思わない?」
ト「いえ・・・?僕はごく普通だと思いますが・・・。」
削「だとしたら本当に変わり者よ。」
ト「・・・?あの、失礼ですが・・・一体どのような点でおかしいのでしょう?」
削「だって、当たり前の事じゃない。私たちは仕事をしたの。それだけよ。」
ト「ですが、社交辞令は世の常といいますか・・・。」
削「私たちは貴方のいう主の道具なのよ?彼が私達の挨拶を交わす時間を与えられるほど、余裕があると思う?」
ト「それは・・・。」
削「だから別に良いのよ。気にしないで?」
ト「はぁ・・・(ずいぶんと冷静な方なんだな・・・。) 」
削「でも、貴方面白いのね。ここ数ヶ月、まともに私に話しかけてくる方なんて定規(以下定)以外いなかったのに。」
ト「そうなんですか?そんな、これほど魅力的な容姿を持っているのに!」
削「話しかけてくるのはいるわよ。ほら、あそこの奥にいる色鉛筆たちとか。」
ト「あ、いますね。でもまともって、違うんですか?あの方々は?」
削「まあ、そのうち貴方も話す機会があるでしょう。」
ト「あぁ、はい・・・。」
削「あ、主が戻ってきた。じゃあ次からは気にしないでね。」
ト「い、いえ!それは・・・!!」
削「私がいいって言うからいいのよ。」
ト「はい・・・えと、あの・・・削さん?また、お話ししても良いでしょうか?」
削「暇だったらね。じゃあまた。」
ト(はぁ・・・・・・結局、夕方までに5回も削さんの世話になってしまった・・・にも関わらず、その間一言も喋れなかったし!うぅぅ・・・予定ではもっと親しくなるはずだったのに・・・。)
赤鉛筆(以降赤)「おう、新入り!」
ト「あ、はい?」
赤「お前・・・先に入っている俺らに対して挨拶もしねえのかよ。」
ト「え、すいません!自分はトという者です。あの、近くまできたら自己紹介しようと思ってたんですが・・・。」
青鉛筆(以降青)「遠くからでも大声でやれっつうんだよ、ボケが!おめえ自分の立場わかってるんかあ!?」
ト「・・・?どういうことでしょう・・・?」
赤「バカか?俺らが先輩だっつうんだから、お前は黙って俺らの言う事聞いてりゃ良いんだよ。」
ト「あ、はぁ・・・(削さんの言っていた意味はこのことだったのか。)」
ト(お、丁度いい。主が私を色鉛筆さん達の方に置くようだ・・・。)
赤「・・・やっときやがったな。ところでよう、お前。」
ト「はい。」
赤「さっき削のところで何やら楽しそうにしてたな?何話してた?」
ト「えっ、と普通に・・・自己紹介を・・・。」
赤「自己紹介ねえ・・・。はっ。お前、あいつともう親しいのか?」
ト「いいえ、全然ですが・・・。」
赤「おい坊っちゃん、随分と鼻の下を伸ばした面で嘘こくなよ?ここから見る限り仲良さそうだったぜ?・・・あの野郎、俺らが優しく話しかけてやっても、うんともすんとも返さないくせにな。」
青「いい気なもんだぜ・・・。掃き溜めのくせに。」
ト「あの・・・・・・待ってください。今、なんて言いました?」
青「は、き、だ、め、って言ったんだよ。もう一度言ってやろうか?はー、きー・・・・・・」
ト「やめて下さい。」
赤「どうした?大好きな削ちゃんの悪口を言われたから怒っちゃったのか? はっ、怖いねえ・・・おい青、もっと大声で言ってやれ。」
ト「お願いです。やめて下さい。」
青「へへっ・・・・・・赤よう、こいつ久しぶりに楽しめそうな奴だな?」
赤「な。ここんとこ話しかけると皆黙る奴らばっかりだったもんなぁ。骨のない奴ばかりで正直飽き飽きしてたとこだ。まああれだ、これからもよろしくな、無彩色君。」
青「俺らと楽しい時間を過ごそうぜ?」
ト(・・・・・・僕は入ってきたばかりだ・・・。周りの状況を知らない限り、 こいつらと衝突するのは早すぎる・・・。まだ、耐えろ・・・。)
ト「・・・トです。よろしくお願いします。」
ト(奴らの他にも色鉛筆はあるけど、誰も楽しそうに話している者はいないようだ・・・。隅の方では何やら小声でしゃべっているようだが・・・)
青「おい、ト!ご主人様がお呼びだぜ‼︎」
ト「あ、はい!」
(シャー、シャー)
ト(あの色鉛筆たちがここでの今の支配権をもっているのか・・・?)
定規(以下定) 「おつかれさま。」
ト「え!?あ、お疲れさまです!自己紹介もなくすいませんでした。」
定「いいっていいって。ト君だよね?さっき話を聞いていたから大丈夫よ。あたしは定、よろしくね。」
ト「よろしくお願いします!あの、さっきって・・・あの色鉛筆たちとの、ですか?」
定「うん、そう。」
ト「それは・・・恥ずかしい限りです。」
定「いいのよ。最近入ってきた子たちも皆怖がってて、話しをしようとする物すらいなかったしね。」
ト「やっぱりそうなんですか・・・。」
定「うん。だからト君はちょっと珍しいかも。」
ト「へえ・・・・・・。」
定「ほら、ぼーっとしてないで!今度は削の方に行くようだよ。心の準備準備!」
ト「あ、はいっ!ありがとうございました!」
定「めげないように頑張りなー!あたしは言われたら相談に乗るよー!」
ト(良い方もいるんだな・・・。さあ次は削さんだ。一瞬だけど、何か話したいな・・・・・・!)
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