第4話
ト「・・・・・・地獄?」
定「うん。はじめの内は二人とも気づかなかった・・・というより、無意識に避けていたんでしょうね。でも、彼が次第に原型を留めておけなくなった頃、削は突然感情を爆発させたの。もういやだ・・・大好きな相手をこれ以上削りたくないって・・・もうすごかった。おかげで主は仕事が止まってしまってカンカンに怒りだすわ、彼の方はどうしていいのかわからなくて狼狽えてしまうし・・・。」
ト「結局、どうなったんですか?」
定「そのとき私が二人に呼びかけて、どうするか決めさせたの。ところが彼氏は焦っちゃったせいか、早まった判断を下してしまったの。」
ト「早まった判断・・・?」
定「『このままでは二人ともダメになる。だから、キミはいつも通り、僕を最後まで削ってくれ』って・・・。仕事の上では彼は正しかったかもしれない。でも、それはあの子に自らの大切な相手を手にかける事を意味していたのよ。」
ト「・・・。」
定「削は絶対嫌だって言い張ってね・・・どうしても譲ろうとしなかった。でも、主がこのままではあの子すらゴミ箱に入れかねない勢いだったから、彼は必死に説得したのよ・・・。結局、削は泣きながら彼が捨てられる最後まで、削り続けたの。」
ト「そんな過去が削さんにあったなんて・・・。」
定「うん。だから、その後の彼女はより一層冷静を装って、なんでもないように仕事をこなすようになった。辛いからこそ、あの子は無関心であろうとする。あと君は気付いた?彼女、あの事件が起こってからは一度もゴミ箱を見ようとしていないのよ。最後の日、もう使われなくなった彼があっけなくゴミ箱に捨てられるのを見てしまったからでしょうね・・・。」
ト「・・・そんな事情も知らないで、僕は・・・。」
定「私が・・・キミになんで告白しないようにお願いしたか、意味はわかった・・・?」
ト「自分が捨てられる恐れを知らなかったから・・・ですよね。」
定「うーん、それもひとつ。あと気持ちを知った削が、また昔のような苦行をさせられると知って、同じ事を起こす可能性もね・・・。」
ト「ははっ・・・参りました。」
定「あの子を好きになるためには、これほどの覚悟がなきゃいけないんだよ?」
ト「そうですね・・・。」
定「覚悟ができたら、削に気持ちを言いなさい。ただし、ダメ男の決断はお姉さんが却下するからね?」
ト「全く厳しいお手前で。」
定「あはははっ!あたしは可愛い親友に関しちゃ容赦ないよ~~~?」
ト「あははっ・・・まあでも、ありがとうございました。おかげでいろいろと気持ちの整理がつきました。」
定「いいってことよ!ぶっちゃけ、削とト君が幸せになってくれれば何でもいいんだから!・・・さて、主が休憩にいくようね。」
ト「そうですね。」
定「たぶん、次は赤鉛筆のところに行くはずよ。下書きはある程度終わったみたいだし。この際、あんた気合い入れてアイツらにガツンと言ってやんなさい!」
ト「元よりそのつもりですよ。」
定「おーっ、アンタ成長したね。いい顔になってるよ。がんばりな!」
ト「はい。」
定「・・・・・・ト君・・・削もキミに惹かれ始めてるんだよ・・・。じゃなきゃ、さっき私に相談してきた時、削があんなに取り乱したりするはずがないもの・・・だから・・・本当に頼むよ・・・?」
ト(いよいよか・・・。)
赤「おう、新米。答えは決まったか?」
ト「はい。」
青「おお、気合い入ってんなあ!きちんと足りねえオツムで考えたようじゃねえか。なあ?」
赤「どうだ?簡単だったろ?」
ト「そうですね。結局のところ、全く悩む必要すらなかったです。」
青「ぎゃははははっ!だろう?」
赤「そうだろう。・・・じゃあ、一応確認させてもらおうか。」
ト「そうですね・・・じゃあ、はっきりと言います。」
赤「おう。」
ト「僕は貴方達には従いません。」
赤「・・・・・・。」
青「・・・は?」
ト「もう一回言いましょうか?おれは、あんた方には、従わない。」
赤「うるっせえ‼︎てめえ・・・ふざけんのもいい加減にしろよ。ああ!?こっちが親切に話してやったからっていい気になりやがって‼︎‼︎」
ト「いい気でもなんでもない。簡単な自分の答えをそのまま言っただけです。」
赤「だーかーらぁ、何度言わせたら気が済むんだおめえは!?アイツらは敵なんだぞ?何がおかしくてそんな考え方ができんだテメエは?」
ト「おかしい?じゃあ、あんた方は自分たちが正しいと思っているんですか?」
青「ったりめえだろが!!アイツはそのものが悪だろうが!それ以外の何だっつうんだよ!!!」
ト「敵とか味方とか正しいとか正しくないとか、そんな問題じゃないだろう!!!そんな考えだったら、自らの役割から逃れ、机の隅に這いつくばり他者を苛み続けている貴様らこそが、全ての敵だ!!!」
赤「うるっせえ‼︎おい青・・・どけ!!!新米・・・てめえはもう要らねえよ。存在が迷惑だ!二度と喚かねえように、こっから突き落としてやる・・・。」
ト「残念ながら、僕にはそこまで行ける手段はないですね。」
赤「ククク・・・できるんだよ、それがな・・・。」
ト「何?」
赤「さっきから、あの図体のでけえクソご主人が久々に俺を捜している。奴が俺をつかんだ瞬間、少し動けば、俺の体でおめえを吹っ飛ばすこともできるんだよ・・・クククク、ちょっとしたコツが必要なんでな・・・このテク手に入れるのは苦労したんだぜえ・・・?」
ト「・・・外道らしい技だな。」
赤「まあそう怖がんなよ。今に知らせてやるさ・・・おい、聞こえてるか、クソ野郎!!俺はここだ!!・・・そうだ・・・そのまま来い・・・じゃあ行くぜ・・・!ほらよっ!」
ト「あっ!」
(カツンッ!コロコロ・・・・・・)
青「ようこそ新米ちゃん!!んん~~~待ちわびたぜえ~~~~!!」
ト(クソッ・・・!本当に・・・このままでは・・・!)
赤「上手く行ったようだなあーー!!帰ってきたら突き落としてやるぜえっ!!!」
ト「・・・クッ!!」
赤「おう、小僧!」
ト「・・・・・・??」
赤「最後にいいモノ見せてやるっ!!これが俺たちの奴への正しい扱いって奴だあ!!!」
ト「ま・・・さか・・・・・・おいやめろ!変なことをするんじゃない!!いま削さんは不安定なんだ!」
赤「そうか!!じゃあ虐めがいがあるってもんだなあっ!!ははははっ、
アリガトなあ!!」
ト「しまった・・・!僕のバカ野郎っ!!!おい、やめろーっ!!やめっ・・・ング⁉︎」
青「少し黙ってようぜえ、子犬ちゃん?おれはよう・・・大きな音が大嫌えなんだよ。特にお前みたいに大して力もないくせに、キャンキャン吠えまくる奴なんざ、特にな?もうすぐ終わるんだから・・・最後ぐらいは綺麗に終わらそうぜえ・・・?」
ト「む、ヴーーーーっ!ヴんーーーっ!!!」
男「・・・・・・とりあえず、削っとくか。」
(グッ・・・)
赤「おう、久しぶりだなあ、ネエちゃんよ・・・最近じゃずいぶん楽しそうじゃねえか?」
削「・・・・・・。」
赤「ほう?またお得意のだんまりかい・・・?いつもはそれですますが、今回はそうはいかないぜえ・・・?」
削「・・・・・・?」
(ヴーーーーーーン・・・)
赤「おっ・・・相変わらず・・・おめえの体はたまんねえなあ・・・。ほんと、名器だぜ・・・でもよう、ほれっ。」
(ガリッ・・・ガガガ!!)
削「な・・・!?」
男「芯が折れたか・・・。」
赤「へへっ・・・何回でもやってやるぜ・・・おめえの体を味わい尽くしてやる・・・この、死神が!!」
削「・・・‼︎」
赤「おっとう、やっと顔を上げたな。そんなに死神って言われんのが嫌か?それとも殺人鬼と呼んだ方がいいか?・・・なあ、他の色鉛筆どもから聞いたぜ・・・おまえ、三年前に好きになった鉛筆に手を下したんだってな。」
削「・・・。」
赤「なぁ・・・どんな気持ちだったんだよ?自分の想う相手を命ごと削り落とした気分はよ?『どうせ消耗品だから』なんて、すぐに開き直れたのか?そんなに切り替えがアッサリできる位、お前は都合の良い頭をしてるのか・・・?」
削「・・・やめて。」
赤「そうだよなあ、俺達の行末なんか気にするわけがないよなあ。そういう奴だからこそ、今までノコノコ生きながらえてきたんだもんなあ‼︎恋人だろうと、お前にとっては二、三日後にはゴミ箱にポイされる物でしかないもんなあ‼︎‼︎」
削「・・・やめ・・て・・・。」
定「赤あああああああああっっ!!!てめえ何言ってやがんだああああ!!!今すぐここに降りてこい!!てめえの体ぶち折ってやる!!!!」
赤「やなこったあ!!線引くだけの脳しかねえアバズレには興味ねえんだよ!!・・・おら、もう一丁。」
(ガリガリガリッッ!!)
男「またか・・・あーもう・・・。」
赤「まだまだ終わんねえよ・・・可愛い娘ちゃん?」
削「やだ・・・もうやだ・・・。」
赤「そうやって泣いてりゃ許してくれると思ってんのか・・・?そんなつまんねえ嘘泣きで、おめえが今まで削って葬ってきた、全ての鉛筆が許してくれると思ってんのか??!」
削「うぅ・・・うっ、ん・・・う・・・。」
定「許さねえっ!!てめえは絶対許さねえぞ、赤あああああアああアあアアア!!!」
青「オホーーーーーッ!!おい見ろよ、タマンネエなあ!!いつもいい気になってる奴らが赤に滅茶滅茶にされてんぜえ!」
ト「んヴーーーーーーーッ!!!んーーーーーっっ!!」
青「・・・うっせえ奴だな。お前も喜べよ?ったく、これだから二人とかつまんねえ。赤も自慢ばっかしで飽きてくるしなあ・・・。」
?「それなら、わしも参加するぞい。」
青「は?・・・え??」
(パコーン、コロコロ)
青「お、おい・・・何だてめえ!勝手に俺の上に乗っかるんじゃねえよ!!!」
?「いや~~~たまたま落ち場所が悪かったもんでな。勘弁してくれや。」
ト「はあ、はあ・・・っ!え・・・け、消さん!?」
消「ん?おー、昨日は上手くいったかい?ケラケラ」
ト「な、なんで・・・!?どっちにもつかないって前言ってたじゃないですか?」
消「ん?まーそう言ったかもな。言わなかったかも知れん。まあ、たまたまここが見物にいいと思ってな。それだけだ」
青「てめえっ!!俺を無視してんじゃねえ!!このおれを・・・むぐぅ!?」
消「しかし、ずいぶんと座り心地の悪いクッションだな。安物だろか?うん」
(ヴーーーーーーーン・・・・・・)
赤「へ・・・へへへ・・・・・・もう、これで四回目か・・・・・・。」
削「・・・・・・ぐすっ・・・ぐすっ・・・。」
赤「大分お疲れのようだなあ・・・?俺だってなあ、自分の寿命を縮めてまでしてやってるんだから楽じゃねえんだぜ、削ちゃんよう・・・。」
削「・・・ぐすっ・・・・・・。」
赤「そうだそうだ、そんなおめえに、もう一つとっておきのニュースを教えてやる。」
定「・・・やめろ!もう満足だろうが!?削はもうそんなに傷付いてるんだ!これ以上するんじゃねえ!!!てめえ・・・おい!!」
赤「クククク・・・プライドの高え奴を見下ろすのも悪くはねえな・・・それでよう、ネエちゃん。おまえのおかげでな、これから一つ、鉛筆が消えることになるんだよ。」
削「・・・・・・え・・・。」
赤「あの最近入ったばかりの、トとか言う奴だっけなあ?あいつ、俺たちがいくら親切に説得してやってもよ、どうしてもおめえらのことを庇うんだよ。」
削「ト君が・・・?」
赤「強情なやつでな・・・ったく、クソ生意気な野郎だぜ。あんまりムカついたものだからさ、この仕事が終わったらな、あいつをあそこの隙間に葬ってやるのさ。」
削「っ!!?」
赤「ククク・・・・・・全部お前のせいなんだぜえ・・・?お前があいつとあんなに親しくしさえしなければ、あいつもああはならなかったのになあ・・・?」
削「・・・いや・・・・・・いやぁ・・・・・・。」
赤「そうだ・・・《あいつは・お前のせいで・消されるんだ》。」
削「いやああああああああああああああ!!!!!!」
赤「クククク・・・こいつぁ効いたようだなあ?」
削「もうやあ・・・やだああああ・・・誰も・・・誰ももういなくなって欲しくないのに・・・やだあ・・・やだやだやだあ・・・やああ・・・・・・。」
赤「もう遅えんだよ!おめえが泣いても、誰も救われる奴なんざいねえんだよ!」
定「赤アア・・・!てめえは、あたしが罰を下してやる・・・・・・!!削!!!そんな野郎の言葉なんか聞いちゃわないで!あんたは何にも悪くないんだ!」
赤「ほう・・・優しいねえ!こっちまで涙が出そうになるぜ。でもな、俺の言ってる事に間違いはないぜ?それをこいつがわかっちまった時点で、もうおしまいだ。後は俺が好きなだけなぶりゃあ、それでおしまいなんだよ、ギャハハハハハ!!!ほらあと一丁!」
(ギャリガリガリガリッ!!)
定「やめろ・・・やめろお・・・・・・!」
赤「・・・ふう。削ちゃんよう・・・おめえ、もしかしてトが好きなんじゃねえのか?なあ?再び好意を持てた相手だろう?今までの鉛筆どもとは、まるで態度が違うぜ・・・?」
削「・・やあ・・・あ、あああ・・・。」
赤「でもなあ?あの新米は、今頃お前さんのことを、恨み始めてるんだろうな。『削さんにさえ関わらなければ、僕はむざむざ殺されることもなかったのに。あんな鬼に関わってしまったばかりに殺されるなんて、あんまりだ』なんてなあ!!!」
削「ああ・・・あああああああ・・・あああああああああああ!!!!!!!」
ト「削さん!!!!」
赤「・・・チッ。青の野郎・・・しくじりやがったのか・・・。」
定「・・・ト・・・君・・・・・・?」
ト「削さんっっ!!!僕は無事だ!!!だから、そんな奴の言うことなんか聞いちゃいけないっ!!」
削「・・・・・・ト君・・・・・・。」
ト「僕は大丈夫だ!!!アイツの言うことは嘘っぱちだっ!だから、泣かないでください!!!」
赤「へ、へ、へへへ・・・おめえがなんと言ったってな、今は俺がこいつを支配してんだ!!この負け犬が!!」
ト「そうとも言えないぞ。自分の身体を見てみろ。その長さが今までの悪行のおかげだ。それに、そろそろ主も痺れを切らすんじゃないか?」
赤「クッ・・・うるっせえ!!と・・・おい・・・やめろ・・・離すな!!おい、クソ野郎!!俺はまだやれるぞ!!」
男「もう使えないな、これ・・・。」
赤「てめえ!!!戻すな・・・・・・コラア!!」
消「いわんこっちゃない。」
赤「仕方ねえ、これからおめえを突き落としてやる・・・!」
ト「黙れ・・・・・・定さんや削さんにあんな仕打ちをした以上、貴様はもう許せない。次は、貴様の・・・番だ。」
赤「あ、青は・・・?青!おい!!!」
ト「仲間がいない以上、おまえも自由には動けないようだな。それに、自慢していた体も今はすっかり貧相になったもんだ。それでは今の僕を動かすことはできないぞ。」
赤「青!!!・・・・・・てめえら、青をどこにやった!!!」
消「ここにおるで?」
青「むぐーーーーー!!ぐーーーー!」
赤「・・・・・・へ、へへへ・・・。だが新米よう・・・おめえは何もできねえだろが?今までだって何にもできなかったヘタレが、どうやって俺に罰を下すんだ?」
ト「それはさっき貴様から教えてもらったよ。」
赤「何・・・?」
ト「自分で動けないなら、主を使うんだろう?」
(カタン、コロコロ・・・)
赤「へへ、でもこの位置じゃあ、てめえの体は届かないな?へ、へ、へへへへ・・・俺は生き延びてやる!てめえらの思い通りにはさせねえぞ!!!!へ・・へ・・・は・・・ははは・・・ぎゃははははは
は!!!」
ト「誰が僕の体を当てると言った・・・?」
赤「は・・・はは・・・・・・は?」
ト「ちょうど隙間の正面にいったな・・・僕の体が届かないのはよくわかっている。なら僕の代わりに、主を当てれば良い・・・。」
赤「ちょ・・・まさかてめえっ!!!」
ト「ここで、僕の先端を、主の指に刺せば・・・!!!」
男「あだっ!」
(・・・コンッ、コロコロコロ・・・・・・)
赤「やりやがったなぁ‼︎この、同族殺しがっ!!!!・・・このままで済むと思うなよっ!!その顔は忘れないからな・・・せいぜい次会う時まで怯えてろ・・・ははっ!俺は必ず戻ってくるぞ・・・その時は塗装を全部剥がしても、芯をすべて刳り貫いてやっても許してやらねえ!絶対にだ、ギャハハハハ‼︎徹底的に傷めつけてやる。死んだって許してやらねぇ・・・ケケケ、震えてるがいい・・・ははっ、ぎゃははは、はーはっはっはっはっ!!・・・。」
(・・・カツン、カランッ・・・・・・・・・・・・ッ)
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