第19話 裏切り

「魔王様! 目が見えない! 真っ暗です!」

「わたしもよ! ここは暗いの!」

「騒ぐでない、響く」


 マロロたちは、隠し通路を走っていた。表の騒乱が嘘であるかのように、ここには静寂しかない。自分たちの足音と息遣いが、石壁に反響し木霊し続けた。


「あっ!」

「きゃ!」


 マロロが足をもつれされ転び、手をつないでいたリオも巻き込まれる。立ち上がったマロロに、リオは罵声を浴びせる。


「いたた……」

「もう、何回目よ! どんくさいんだから!」

「す、すいません……」


 すっかり立場が逆転していた。もともと押しの弱いマロロである。


「巫女よ、何者かが来るぞ」

「え⁉ 前⁉ 後ろ⁉」

「進行方向からだ。小僧、構えろ」

「え? なんでですか? ここにいるならきっとサーラナさんとかが……」

「足音を殺している。そ奴らではないぞ」


 慌ててマロロはリオの前に立って魔王を構えた、体は震え、恐怖で歯が鳴りやまず吐き気がこみ上げてくる。迫る二つの影が暗黒の中でも確認できる濃さを帯びているのに、足音はおろか息遣いすら聞こえさせない不気味さが、吐き気をさらに高めていた。


「うう……」

「こ、ここで吐かないでよ? 臭いが……」

「わ、わかってます……」

「口開けなくていいから」


 そのやりとりを聞いた途端、影の歩みが止まった。


「……マロロ?」

「ふえ?」


 ひとつの顔が、暗闇から浮かんできた。

 マロロも魔王も、その名を知らない。だが、誰かは知っていた。


「お前どうしてこんな……」

「どうした?」

「マロロがいるんですよ」

「何⁉」


 今度は、声だけでわかった。向こうがそうであるように、マロロも彼らと何度もあっているのだから。


「ザハード……さん?」


 ザハードとその仲間たちが、マロロ一行と再会を果たした。

 手に持った兇器さえなかったら、それを喜べたのかもしれない。

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