第13話 難題
それからリオは以前にもまして、マロロを側に置きたがった。それは異常であった、勉学、食事、入浴や寝所までスロットですらたしなめるほどで、まるで己の全てをさらけ出すかのようだった。
無論、露悪趣味やからかいではない。彼女は、『巫女』となってから初めて出会った『完全な他者』であるマロロに惹かれていた。サーラナで、まともに彼女に接する者はいない。『巫女』か『スロットの娘』、それだけがリオを形作っていた。本当の彼女を見ないのではない。見る必要のあるものが、誰もいないのだ。
リオはそれを言葉にできる程賢くはなかったし、気づかないほど愚かでもなかった。だからこそ、心を閉ざした。
貧民街に生まれた憐れな少女は抹消されている。確かにある過去を、誰も顧みない。ここには国防の要であり、国家中枢に影響力を持つ大商人の娘がいるだけだ。
その日の糧にも窮するものが聞けば、鼻で笑うだろう。事実、贅沢な苦悩だ。子供じみた、浅はかな抵抗だ。だからこそ、彼女は曲げられない。己が己であるために、一歩たりとも下げられない。
だからこそ、味方が欲しかった。誰でもいい、正真正銘の味方だ。そしてそれは訪れた、焦がれ、待ちわびた運命の邂逅である。執着をたしなめるのは、少々酷だろう。不遇の身に訪れた白馬の王子を前に、口を開かず立っていろと命ずるようなものである。
『貴様を好いているのだ、小僧』
「う~ん……」
マロロは、悩んでいた。故郷を喪った痛み、繰り返され途切れることのない血と争いの日々、せまりくるカリメアとの戦争。懸念すべき事柄が多すぎる。
そこにリオが浮上してきた。ただの不愛想な護衛対象だったはずの少女は、いつの間にか自分に好意を示し、尚且つその返事を求めていた。
「どうすればいいんでしょう?」
『人間の色など儂には疎い、貴様で決めよ』
生き残る方法なら、魔王に聞けばいい。
だが、この事態を乗り切る方法はマロロが自力で考えねばならないようだった。そしてマロロは、生まれてこの方そんな経験はあったためしもなかったのだ。
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