第11話 巫女であれ

「……」

「戦が迫っておるな……ふふ、心地よい」

「そういうこと言わないでくださいよお」

「儂にはあちらが日常ぞ小僧」


 魔王の声には、からかいがあった。

 マロロは未来への不安に、大きくため息を吐いた。

 夕食後、どうにかリオに許しを得てザハードの宿に向かった。一行は歓迎してくれ、そんなに長く一緒にいたわけでもないのに、マロロはもうザハード達が懐かしくてたまらなかった。

 話すことはそう多くない、そもそもサーラナまでの同行が当初の約束だった。言ってしまえば、もう互いに会う理由もないのだ。マロロは近況を、ザハードは首長塔では入ってこない情報を交換した。

 

「ああ、やだなあ……」

「ほとほと情けない小僧よの。手を休めるでない、汚濁は好かぬ」


 部屋に戻り、ベッドに腰掛け魔王を磨きながら零した言葉だった。

 カリメアとの戦争は、勇ましく喧伝されている数々の勝利とは程遠い状況らしい。サーラナに含まれている国々は、カリメアと闘う前に降伏するものが大半だった。平時では属国として扱われ、いざ大事となると真っ先に渦中に放り込まれ支援もなしに闘えと迫るようでは無理からぬことだった。むしろ、積極的にカリメアに協力しサーラナからの離反を未だ戦端の開かれていない国々へ打診する始末らしい。

 『巫女』という切り札があるにしろ、形勢は極めて不利である。切り札は強力だが、切ってしまってそれが通じねばもはや残るは裸の城なのだから。

 いつでも逃げられる準備はしとけと、ザハードは笑いながら言った。何故笑うのかと問えば、この流れが自分の国が滅んだ時と全く同じだからと答えた。


「なんで戦争するんだろう?」

「知らぬな」

「……魔王様いっぱい生きてきたんでしょ? なのに知らないんですか?」

「解してどうなろう? 儂には興無きことよ」

「……そうですか」


 これは嘘だとマロロは思った。実際、魔王は生き延びる方法については口やかましいくらいに言ってきたが、こと世の仕組みや政治といったものになると不自然なほど口を閉ざした。

 己で掴め。そういうことなのだろう。それは不満でもあり、両親を思い出させもしてくれて、嬉しかった。


「入るわよ」

「ひっ、入る前に言ってくださいよ」

『ふん、巫女か』


 リオはマロロの前までづかづかと進むと尊大に彼を見下ろした。相変わらずの仏頂面だ、だが身の回りの世話役たちがみれば『随分機嫌がいい』と評すだろう。マロロには分かろうはずもないころだが。


「戻ったら言いに来なさい」

「も、もう遅いですし……」

「口ごたえしないで」

「は、はい」

「立って」

「あ、あの……」

「さ、行くわよ」

「え? こ、こんな時間に……ど、どこに行くんですか?」


 リオが笑った、相変わらず、下手くそな笑顔だった。


「両親のところよ」

 

 

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