第8話 地霊と交わる者

 詳細はまた後ほどと言うスロットの言葉で、その場はお開きとなった。

 首長塔を辞し、宿に戻ったマロロとザハードは、先に寝ていたザハードの仲間はそのままに、今後について話し合うことにした。

 といってもザハードの意見に対して魔王が指図するばかりで、マロロは眠くてぼうっとするばかりだった。そんな中でも、リオの目が無性に怖かった。この世の全てに憎しみを抱き続ければできるような、そんな目だった。

 勿論マロロはそんなものこれまで見たことがない、だからこれは直感なのだ。思いもよらぬ知りもせぬことを本能が察知に、身に伝えた。


「巫女については知ってるんですか魔王さん?」

「ふむ、かつては担い手の中にもいた」


 巫女とは、いうなれば魔法使いである。その土地の精霊と交信し、守護のために絶大な力を貸し与えられる。

 雷。

 焔。

 地震。

 精霊によってもたらされるものは多種多様だが、概ね任意で災害を引き起こせるようなものだ。当然防衛戦では絶大な力を発揮し、寡兵が大軍を退けた戦いの多くはこの巫女の働きが大きい。

 ただし、巫女はその地を離れると精霊との絆を喪い、力を出せなくなる。また土地の守護という側面から、攻めに転じると力を失ってしまう。大口径で破壊力に優れるが、射程距離と移動に欠ける大砲のようなものだ。

 精霊との交信にも多大な時間を必要とし、巫女による相性も存在する。男でも担い手がないわけではないが、大部分は女であり巫女の名が一般的であった。

 攻め手にとっては、これほど厄介な相手もない。故に、巫女がいる場合はその排除を優先するのが常であった。となれば防衛側としては、巫女の守護に過分に力を注ぐ結果を招いた。精鋭中の精鋭が割り当てられる。

 だが、いかにマロロが『武器族使い』であろうとはいえ、最重要兵器である巫女の護衛に素性の知れない者を用意するのは解せない。よほどの窮状か、他の思惑があるはずと魔王は睨んでいた。

 話が終わり、ともあれ金が払われるまでは静観という現状維持の答えに至り、ようやく解放されたマロロは自室のベッドに横たわった。

 眠りは中々訪れなかった。体は疲れ切っている。だが、昂った精神がそれを許さない。ザハードたちとの出会い、戦争、巫女、整理するには起こった事象が多すぎる。マロロは村を焼かれてから何度目かわからない、これは全部夢やお芝居なのではないかという疑いと闘った。

 空が白み始めた頃、ようやくその闘いに勝利し得たまどろみを乱したのは、無遠慮なノック音だった。


『小僧』

「うう……」


 魔王に言われ、軋む体を起こしてドアを開けた。

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