第6話 怪しげな相談

 サーラナはサーラナ地方の首都である。首長制であり人口3万人、大河を挟みカリメア側の大陸に位置しているが、カリメアにもアジロにも属していない。近年加盟を求めるカリメアとの折衝が続いており、先日ついに戦端が開かれたのだった。

 ともあれ、小競り合いが続くのはサーラナにとっては辺境の小国であり、首都では変わりない日常が続いていた。

 マロロたちは運が良かった、野盗から救った人々は、サーラナの有力商人の一族であり。大いに歓待され、用意された上等な宿で豪勢な食事を振舞われた。サハード以下、マロロも久しぶりのまっとうな食事に舌鼓を打つ。カレー、豆カレー、魚のカレー、香料をふんだんに使った陸魚のフライや特産の野菜は、最初こそ独特の香料が鼻についたものの、すぐに慣れ胃袋を満たした。

 思えばマロロは故郷を出てから、野盗から奪った携帯食料と野果物くらいしかまともに食べていなかった。殺人のストレスで嘔吐を繰り返し栄養失調寸前だったが、ようやくの安心感に食が進んでいる。ザハード一行も似たようなものなのだろう。


「『武器族』なんて、どこで手に入れたんだ?」


「あ、えっと」


『話すな』


 魔王が釘を刺す、情報を管理するのも戦いのうちであった。『武器族』と聞いて興味を持つものは多い。余計な面倒は避けたいのだ。


「その……」


「言いたくないか? ならいい」

 

 ザハードはすぐに会話を切り、果実酒を呷った。

 マロロはホッとすると同時に、ますますザハードへの好意を募らせた。まっとうな感覚を持ち、心配りも出来る。


「あ、それとお前な」


「は、はい」


「それがあるからいいけど、闘いは大人に任せな、あぶねえぞ。まず逃げるのが大事だな」


「は、はい」


 至極全うで、叶えられない願い。少なくとも乱世と貧困の中では夢物語である。だからこそ、うれしかった。


「すいませんすいません通して」

 

 席を縫うように来て、二人の間に肥満体の中年男が割って入ってきた。たるんで油光る皮膚と、宝石をちりばめた服装は男の自堕落と虚栄心を物語っている。香水でごまかしているつもりの体臭は、混ざり合ったせいで新たな異臭を醸し出していた

「どうもどうも」

 

 男はザハードを無視して、料理を手づかみで撮むと、マロロを見つめた。笑顔を浮かべているが、卑しさは隠し切れない。

 マロロは警戒心を抱き、念のため魔王の刃先に手を伸ばした。


「坊ちゃん、なんでも相当な腕だとか。あ、それが『武器族』ですかな? ちょっとお話、いいですか? 悪いことはないですぞ? あ、遅れて失礼、わたくしスロットと言います。どうぞお見知りおきを」


 マロロは戸惑いを隠せない。ザハードが話したのかとも思ったが、その考えはすぐに消える、ザハードも同じく戸惑ったようにマロロを見つめていたからだ。


『こやつでないとすれば、生き残りであろう。だから余計なことといったのだ』


 魔王の言葉は正鵠を射ていた。スロットがマロロを『武器族』持ちと断定したのは、生き残りの人々の証言によってだった。無論彼らに悪意はないが、ややこしい事態になったのは確かだった。果たして目的は『武器族』の譲渡か、それとも強奪か。

 マロロは迷い、ザハードに眼をやる。


「ざ、ザハードさんと一緒なら」


「俺か?」


 ザハードを見るスロットの目には蔑みがあった。一方のザハードは気にもしていないが。スロットにとって、ザハードは未開の地の流民に過ぎない。サーラナに限ったことではないが、そういう者に対する態度は、労りより警戒が勝るのが常であった。


「このような蛮族とですかな?」


 偏見のある男だ。マロロがムッとするのにも気づかない当たり、人心にも疎い。もうマロロはどんな願いでも聞くまいと決めていた。それでも心細いので、ザハードにはいて欲しいと言うあたり、まだまだ子供だった。


「そうです」

「ま、よろしいですがね。ではでは」

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