第5話 小さな意地
「⁉」
「なんだ?」
間髪入れず、再び悲鳴が上がった。見ると遠くに、蠢く人影が見える。
『野盗だ』
「え?」
『襲われている、こちらへくるぞ』
ほどなく、人影は数を増し視認できるまで近づいてきた。必死に逃げる女子供とそれを追う―
「や、野盗です」
「だな……」
「に、逃げましょう」
「い、いや。助けないといかんだろ……」
その答えにマロロは驚き、真偽を図るべくザバットを伺った。まず最初に、冗談を言っているのだろうと思った。
だが、予想に反してザバットは野盗たちへ向かっていく。
「お前はあっちに行って守ってもらえ!」
「は、はい!」
ショックから解放され、マロロはザバットとは逆に盗賊と追われる者から逃げ出した。
もとから臆病、魔王に従うしか能のないマロロは、あっさり逃走を選んだ。
だが―
「助けて!」
「……!」
逃げに転じたはずの歩みが立ち止まる。女の声は、故郷の惨状を否が応でも思い出させた。そして、村の壊滅から初めて出会ったまともな男のとった、『正しい』行動。
「……魔王様!」
『⁉ 小僧!』
気の迷いだった。マロロの中の意地とも良心ともつかない衝動が、魔王を手に呼び寄せたのだ。
「野盗だけお願いします! おじさんと追われてる人は!」
『手間のかかる!』
倒れ込みながら放った魔王は、優に数百の間を埋めて、空中を滑空した。投げてさえもらえば、あとは自在。野盗のみを容易く両断していく。瞬く間に、悲鳴があがり静かになった。
戻ってきた魔王を受け止めたマロロはへたりこんだ。達成感と、殺人の罪悪感、虚脱感が全身を襲っていた。
「あ、ありがとうございます魔王様……」
『ふむ、無駄な力よ』
と、ザバットがマロロのそばに来ているのに気づいた。背中の魔王を、しげしげと覗き込んだ。
「驚いたぜ」
「あ、こ、これは……」
「『武器族』か? 見るのは初めてだが……。まあ助かった、まずはあの人たちだ手伝ってくれ」
「は、はい」
ザバットの対応に、マロロは内心喜んでいた。怪しむでもいぶかしむでもない、まずは人命という考えは、荒んだ世の中で光明に見えた。逃げ延びた人々と、魔王により細切れにされた野盗の肉片を前にしてもザバットは動じずに人々を介抱し、亡くなった者を弔う。追いついてきた仲間も同様にするのだった。
マロロも手伝おうとしたが、野盗だったものを見て吐き、助けた人々に交じって手当てをされる始末だった。
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