『怒りについて』より
5でも少し書きましたが、古代ローマの哲学者・政治家のセネカは『怒りについて』という本の中で、怒りについての諸問題をいろいろな例を挙げながら論じています。
その中の怒りの害について力説している部分を引用します。
…(前略)…怒ることそれ自体が、どんなに多くの人々に害を与えるか、ということである。或る者は、余りに激しく怒ったために血管を破ったし、限度以上に張り上げた叫び声が出血を起こしたし、目の中に激しく湧き出た涙によって眼の鋭さが曇らされたし、病人が病気をぶり返したりした。これ以上早く気狂いになる道はない。それゆえ、怒りの共謀を続けて、しまいには、自分から追い出しておいた知性を再び取り戻せなかった者も多い。アイアスを死に導いたのは凶暴であり、凶暴を導いたのは怒りであった。このような者たちは、わが子には死を、己れには貧窮を、わが家には破壊をと、神に祈り求めているわけである。しかも自分は怒っているとは言わない。ちょうど気狂いが、自分を狂っているとは言わないようなものである。…(後略)…
(『怒りについて』(岩波文庫)108ページ~109ページ)
文中に出ていくるアイアスというのは、ギリシア神話の登場人物で、愚直な性質のために最後自刃します。
セネカは、このように「怒り」という感情を徹底的に批判し、害を説いています。私は、「これ以上早く気狂いになる道はない」というフレーズが特に印象的でした。
中国では、最古の医学書『黄帝内経』{こうていだいけい}に、感情が体に及ぼす影響について記されています。
怒りは肝を破り、喜びは心を破り、思いは脾を破り、憂いは肺を破り、恐れは腎を破る。
これは、東洋医学で時々聞く言葉だと思いますが、中国最古の医学書にすでに書いてあり大変歴史の古い言葉だということがわかります。
最近の研究では、「敵意を燃やしたり、怒ったりすることが異常に多い」ということが心臓病にかかりやすい人の特徴の一つとされています。また、デューク大学のウィリアムズ博士は「怒りっぽい傾向の強い人々は、そうでない人々と比べて、50歳以前に死亡する確率が5倍くらい高い」と指摘しています。
「怒ることは体によくない」ということは、古今東西さまざまな人が言ってきた。ということがわかります。
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