第42話 ナグリの秘密
ブラッシングが気持ちよかったのだろう、首をだらりとさげたライトの瞳がうつろになっていく、この調子で今夜ゆっくりと休んでくれればライトの体調も万全に整う。
「ねぇ、一つ聞いていいかな」
「なんだ、あらたまって」
ライトを起こさないように静かな声でシェルがナグリに質問をした。
「ナグリはどうしてハチニーの翼にこだわりをもつの?」
「ハチニーが好きだから」
「え?」
あまりにストレートで簡単な答えにシェルは自分に告白されたわけでもないのに顔が赤くなってしまった。
「ず、ずいぶんと簡単に答えたわね」
「まあ、話せって言われればいくらでも話せるけど、切り詰めればそうなる」
「切り詰めすぎよ」
「お前にはそれで十分だろ」
「どういう意味?」
シェルが相手だからこそナグリは返答を切り詰めストレートにしたと言う。
「ガキの頃、白く輝くドラゴンの翼を見て憧れて、その白い光りが永遠に失われると聞いたときはショックだった」
よくわかる。目標が無くなった様な、夢が消失したようなショック、その感覚はシェルにも覚えがあった。
「もうどこを探してもない、だったら自分で作ればいいと考えた」
ナグリらしい答えではあるがシェルには違和感がした。いくら大人びていても十年前の小さいころに裏方の職人になりたいなんて、大人び過ぎていないか。
「もう一つ聞いていい」
「なんだ」
「ナグリは最初からウィングワークマンになりたかったの?」
「なぜそう思う」
「私も同じだから、小さいころに白いドラゴンに憧れた、だからドライバーを目指したんだけど、私の場合、職人って選択肢はなかったから」
選択肢がなかった、そもそも十年前のシェルは竜翼職人という職業もしらない子供だった。ナグリは最初から職人の事を知っていたのだろか。
「…………」
シェルが感じたことを口にすると、ナグリは黙り込んでしまった。
「……俺だってはじめはドライバーを目指したよ」
「あ、やっぱり」
ナグリは隠していた想いを当てられて恥ずかしいのだろうシェルから視線をはずした。
「ナグリにもかわいい時代があったんだね」
このドラゴダート王国で育った子供なら一度夢見る職業、王国聖騎士を押しのけ子供がなりたい職業第一位がドラゴンドライバー。
ナグリもそんな子供だったに違いない。
「どうしてドライバーをやめたのか、聞いてもいい?」
「さっきから質問ばかりだな」
「いやなら答えなくてもいいよ」
いつもと違いナグリの反応にシェルは楽しくなりニコニコ顔になっている。
「…………にがて……だ」
「え?」
小さい声をさらに小さくしたので聞き取れなかった。
「高いところが苦手なんだ」
「そっか」
「笑わないのか」
反応が薄いシェルにナグリは疑問をいだいた。
「予想通りの答えだったからね」
子供がなりたい職業第一位がドラゴンドライバーなら、子供がドラゴンドライバーを諦める要因第一位がドラゴンの背に乗った時の恐怖である。
こうしてナグリの秘密を聞くことができたシェルは精神もリラックスでき心を締めつけていたプレッシャーから解放された気がした。
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