第41話 準備万端
ライフ牧場のスペースを借りていた調教師は意外なほど多く、カートスが知っていた調教師の半分近くが一度は使用していた。ハルナの人受けがいいことも加わり、情報取集は予想を大きく上回る収穫があった。
「ハルナちゃん、やりかたを教えてもらっていいかの、どうやってあの口の堅い調教師たちから情報を引き出したんじゃ」
この数時間で十年は老けたカートスがよぼよぼな声でハルナにすがる。
「コツを教えてくれ」
「コツと言われても……」
特殊な何かをしたつもりのないハルナはコツと聞かれても困ってしまう。それでも監督の頼みなので必死に考えて答えを絞り出した。
「えっと……元気に笑顔で挨拶、かな」
「それだけ」
「あと、相手の名前をきちんと覚えるぐらい」
「それだけ」
「それだけ、ですけど」
本当に特別な事はしていなかった、カートスの自信がボロボロになって崩壊した。
監督であるカートスが考えたトレーニングメニューをすべてこなしたライフ牧場チームは、第九回の予選トライアルにエントリーした。
前回出場した第四回予選トライアルより時間がだいぶあいてしまったが、今回は準備ばんたん、勝算有でレースに臨むことができる。
第九回戦予選トライアル前夜。
シェルは日課であるライトのブラッシングをおこなっていた。
「明日は久しぶりのレース、絶対に完走して勝つわよ」
今度こそライトを落水させないと願いをこめてブラッシング。
「ドライバーはもう寝ろ」
厩舎にナグリが訪れた。シェルはブラッシングを一生懸命にやり過ぎて時間を完全に忘れていた、いつもならもう眠りについている時間であった。
「寝不足で実力が出せなくなれば、訓練の意味がなくなるぞ」
「ナグリこそどうしたのよ。レース前はいつも徹夜で作業場にこもる人が珍しいじゃない」
「ダンのおっさんのおかげで徹夜免除になった、明日にそなえてゆっくり眠るさ」
「徹夜好きが珍しい」
「別に徹夜なんて好きじゃない、時間がなくて徹夜になっていただけだ。徹夜明けなんて集中力は続かないしいいことなんてない」
「それじゃ明日はチーム全員が体調も万全で望めるんだ」
「早く寝ればな、ブラッシング手伝うから急いで終わらすぞ」
「急いでおざなりにやらないでよ」
「誰がおざなりにやるか、ライトは俺たちの夢そのものだろ」
「ブラシはこれ使って」
シェルは手に持っていたブラシをナグリ投げわたし、自分は足元のカゴから新しいブラシを取り出す。
「おう」
二人がブラッシングをはじめた。
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