第40話 強化メニュー3
強化メニューその3『情報網構築』
情報を征するものはダービーを征す。
相手チームの情報など皆無といっていいほど何も無かったライフ牧場チームはカートスやサイビンのコネを使い情報を仕入れることとなった。
今後のことも考え、オーナーであるハルナも情報収集のやり方を覚えるために同行、サイビンがライフ牧場用に調達した新品の竜車でカートスの知り合いの元に向かう。
「すごい竜車ですね」
ナグリの作ったライフナグリ号とは比べ物にならないぐらい乗り心地がいい。切り株のイスと高級ソファーぐらいの差があるとハルナは感じた。
「サイビンさん、この竜車は?」
「コネを使って格安で手に入れました、これでレース場までの移動によるライトにかかる負担を最小限に抑えられます」
「それはとても助かります」
「牧場マネージャーとして当たり前のことをしただけですよ」
「あとはアギの手配ですが、そちらもお願いしていいですか」
「し、しっかりしているね」
顔が引きつるサイビン、同じチームになったからには遠慮はしない、以前にそんな話をナグリとしたことをハルナは思い出していた。
「遠慮できるほどウチの牧場に余裕はありませんから」
「まかせておけハルナちゃん、ワシのコネで情報をもらうついでにアギの一頭や二頭かるくもらってやるわい」
若い女性にいい所を見せようと、立派なヒゲの老人はやる気を見せる。
「そんなこと言って大丈夫なんですか?」
ちょっと隣りから梯子を借りてくるみたいな、軽いノリのカートスに心配そうなサイビン。
「大丈夫、ワシに万事まかせておけホホホ」
そしてカートスが自信をもって訪ねたのは、優勝候補にも挙げられているドラゴンの調教師の元であった。委員会時代の知り合いで、何度か食事を共にしたこともあるらしい。
「ちょっと予選に出るドラゴンの話しを聞きたいのじゃが」
カートスが訪ねれば何でも答えてくれる――。
「そんな情報、委員会相手でも教えられるわけねーだろ」
――わけではなく、しょっぱなから拒否された。
「そこをなんとかワシとおヌシのなかじゃろ、ワシは委員会をやめたのじゃ不正にはならんぞ」
「だったら尚更ダメだ、年寄りの道楽に付き合っているヒマはない」
元委員会の看板がまったく役にたたない。
「あれ~……」
アギをもらう云々の前に情報がもらえなかった。
「ほかに用事がないなら、帰ってもらえないか仕事が残ってるんだ」
仕事に戻りかけた調教師の男がカートスの後ろにいたハルナに気がつく。
「おう、ハルナちゃんじゃないか」
「こんにちは、ニールおじさん」
カートスを邪魔者扱いした調教師がニッコリと笑顔でハルナに挨拶する。
「この前は世話になった」
「いえ、困った時はお互い様です」
調教師のニールはさっきとは態度がまったく違う。
「ダイロイアンの調子はどうですか」
「おかげさまでうちのドラゴンは絶好調よ、次のダービー予選に出場するつもりだ。翼のセッティングを代えてから粘り強さが増してな、後追いの戦法から先行型にチェンジしたんだ――」
聞いてもいない情報をペラペラと教えてくれた。
「オーナー、彼と知り合いだったのかい?」
一通り話しを聞いてからニール調教師と別れると、サイビンがハルナに尋ねた。想定していた入手方法とは違ったがばっちりと情報を仕入れることができていた。
「うちの牧場、今までドラゴンが一頭もいなかったので、調教場所をさがしている調教師さんにスペースを貸してたんです」
今牧場を経営している資金はそのときに稼いだ貯金で賄われている。
「……もしかして、調教師の知り合い他にもいる」
「ええ、何人かは」
サイビンはハルナの知り合いだという調教師の名前を聞いてリストアップしていく。
「予選トライアルに係わっている調教師が何人かいますね、作戦を一から組み直しましょう」
急きょ予定を変更して、サイビン発案のもと情報網構築パート2が組まれた。
カートスが知っているレース関係者の居場所に案内して、そこからはハルナが前面にでて世間話をしながら情報収集。
「おう、レンタル牧場のオーナーじゃないか」
「ルドリスさん、ライフ牧場はレンタル牧場じゃありませんよ、れっきとした競争竜を育てている牧場です」
失礼なもの言いにも嫌な顔をせず笑って流す器量を見せ会話を弾ませる。
「そいつはすまなかったな」
そして世間話をするかのように、いや本当に世間話をしながらハルナは予選トライアルに出場するドラゴンの情報を集めていった。
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