第43話 ナグリはすごい

 ドラゴンダービー予選トライアル九戦目。

 ライフ牧場チームはこれが三度目の挑戦となる。サイビンの手配した白く塗られた新品の竜車でライトへの負担を最小限に抑えてレース場に到着した。

「ライフ牧場のカラーはやっぱり白しかありませんからね」

 と、予選トライアル参加日にあわせ塗りなおされた純白の竜車、塗りたての塗装の匂いがシェルたちに新しい挑戦の開始だと告げているようだ。

 いまだ白いウィルスと陰口をたたく者もいるようだが、やることをやってきたという自信がその全てをはねのける。

 ピットの中へ白い竜車から白いドラゴンおりたち白いハチニーの翼がおろされた。

「作業をはじめるぞ」

 真面目な表情のカートス監督が指示を飛ばし。

「風向きのチャックはしたのか」

 ダンは翼のセッティングをやる前にレース場の状態を確認する。

「第一コーナーあたりから弱い風、ホームストレートは向かい風になっています」

 サイビンがレース委員会から配られた最新の風向きの資料を読みあげる。

「例年の資料からカートス監督が予測した通りの風向き、今の風圧制御魔法陣エアロ・プログラムで問題ありません」

 いきなりはじまった専門的な会話に若いナグリが違和感なくついていく。

 ピット内では今まで聞いたことのない単語が飛び交い、男性たちの翼のプログラムに対する激しい討論がおこなわれている。

「えあろぷろぐらむ、って何?」

 シェルはまったく聞いた事のない単語をうまく発音できなかった。

「翼に組み込まれている魔法陣の一つで、主にスピードに関係しているわね」

 手の空いているハルナがシェルに簡単な説明をしてくれた。

「それって、かなり重要じゃないですか?」

 スピードはレースの命。

「かなり重要よ」

「ナグリってけっこうすごいんだね、改めて思った」

 これまではナグリと同程度の知識で会話できる相手がいなかったために起きなかったやり取りだ。ここにきてシェルとハルナはナグリに相当の負担をかけていたことを理解した。

「すごいよ、ダンさんもサイビンさんもレース歴三〇年以上の大ベテラン、ナグリくんはあの二人にまったく遅れをとっていないわ」

 キャリア三〇年のベテランと渡り合うには確固たる自信と知識が必要だ。

「一〇代でこんなことができるなんて相当勉強したんでしょうね。よくウチみたいな最弱牧場にきてくれたわ」

 そのとこについてはシェルはいっさいの疑問は感じない、だって――。

「白バカ同盟の盟主ですから、ハルナさんのライフ牧場以外には大金を積まれたって行きませんよ」

「そうね、優秀なチーフをゲットできたことをライトに感謝しないと」

 少しの熱をおびた二対の視線がナグリに送られる。

 盟友に見守られながら、ベテランたちの中で若い盟主は自分にできることを精一杯取り組んでいた。

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