第38話 強化メニュー2
強化メニューその2『翼交換の訓練』
ライフ牧場チームの一番の弱点『翼交換のスピード』、その克服は必須である。作業場前にはこれから特訓を行うためにライトの左右に分かれた二人のワークマンがスタンバイしていた。
より実戦に近い訓練にするためにライフの上にはシャルも乗っている。
「わしは女性には甘く男には厳しくあたるからな、気を抜くでないぞ」
本性丸出しの新監督カートスの激が飛ぶ。
「女性にも十分厳しいとおもいますけど」
ライトにまたがったシェルは異論を唱える。その腰の上にはとうぜんのように水の入ったコップがのせられていた。
「交換の練習のときぐらい休ましてくれても」
「これは愛のムチじゃ、レース本番だってドライバーが騎乗したまま翼の交換するじゃろ」
「確かにそうですけど」
説得されかけるシェル。だが。
「本音は?」
「男だけの特訓なんて癒しがなくていやじゃ」
ナグリの一言でカートスの本音が簡単にこぼれ出た。
「降ります」
「まっとくれ、練習にドライバー必要なのはホントなんじゃ、信じてくれ」
平謝りする髭の老人、ナグリたちがはじめてあったころの貫禄は微塵も残っていなかった。
「大丈夫なのかこの監督」
一緒に牧場にきたダンも不安をもらす。
「シェル、練習にドライバーがいると助かる。お願いできないか」
「……ナグリがいうなら、いいけど」
監督ではなくナグリの頼みならしょうがないと、シェルはしぶしぶ引き受ける。
「それでは練習をはじめようかの」
「目標タイムは?」
「10秒じゃ」
ナグリが一人で交換をやっていたときは30秒以上の時間をかけていた。それを一気に三分の一に縮めろと、カートスは課題を出した。
「翼交換にそれ以上かけてはならん。目標タイムで交換ができるまで何度もやり直しをさせるからな」
「了解」
ナグリが右の翼、ダンが左の翼、ライトを挟んで向かいあう。
「これがクリアできなければトライアル出場は認めんからな」
「そんな!」
シェルが驚き、腰に乗せたコップの水がこぼれそうになる。
「とうぜんじゃろ、ダービーに出場するチームはみな10秒台前後の時間で交換しておる。勝つためには当たり前の目標じゃ」
「大丈夫だシェル。俺を信じろ」
「ナグリ」
「俺じゃなくて俺たちだろ、しっかりついてこいよボウズ」
ダンがナグリを挑発する。
これはワークマンにとってのレースなのかもしれない、一瞬一秒が勝負であり片方でも遅れれば全体のタイムロスになる、甘えは一切許されない。
「ご心配なく、そっちこそ乱暴に扱って壊さないでくださいよ」
「生意気なボウズだ」
シェルとライトを挟んで若いチーフワークマンとベテランワークマンが火花を散らす。
「はじめ!」
カートスが持つストップウォッチ内蔵の小型水晶がカウントを開始した。
「魔力回路始動(サーキットファイア)」
ナグリたちのハンマーが光り、魔法陣が左右同時に現れる。
「いくぜ、生意気な新人にベテランの技を見せてやる」
ワークマン暦三〇年以上のダンの手際は職人の極み、まったく無駄のない力強い作業、腕は間違えなくナグリよりも上だった。
しかし、ことライフライトニングのハチニーの翼に限っていえば、ナグリの作業スピードはダンに遜色ないどころか凌駕していた。この翼はほとんどがナグリより組み立てられたモノ、骨格の隅々まで知り尽くしている。
「俺がチーフだ!」
「小僧が舐めんじゃねぇ!」
ナグリの作業スピードに触発されダンもスピードをアップする。
「負けるか!!」
ナグリも負けじと加速。
レースようなではなく、完全なレースとなっていた。
これはレース関係者のサガなのか、ドライバーでなくてもスピード勝負で負けるのは悔しいらしい、火花がほとばしるほど魔法陣が高速に回転し翼が外され、新しい翼が吸いつくように装着されていく。
真剣な表情で作業するナグリの横顔にドライバーの少女が見とれていたことに気がついたのは、尻尾を警戒しながらも背後に回りこんでいたカートスだけであった。
そして。
「できた!!(×2)」
同時。
二人同時に終了の声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます