第35話 そして結成

「役員はやめてきた、長く役員をやりすぎて飽きてきたからの、ちょうどよいタイミングじゃった」

「やめたんですか!?」

 ハルナが悲鳴のような叫びをあげた。

 買い物に行くのを雨が降ってきたからやめたみたいな、軽い雰囲気でレース委員会役員を辞めたと告げる髭自慢の老人カートス。

「俺も練習場のワークマンをやめてきた」

「ダンさんも!?」

 今度は練習場で顔見知りのシェルが叫んだ、たとえ練習場といってもこの国でもっとも盛んなドラゴンレースの練習場のチーフワークマンだ、その席は軽くない。

 だが当の本人は後悔など一切無いようで相変わらずのガハハ笑いをしている。

「やるからには全力でやりたいしな、もっともこのエセメガネはウィングショップをやめなかったけどな」

 エセメガネとはウィングショップ店長サイビンのことだ。

 サイビンはダンやカートスと違い店長であり自身の店である。やめるとなれば店を畳むしかない、従業員もいるのにそんなことができるわけがない。

「当然ですよ、あんなに大きな店そう簡単にやめられるわけがありません」

 店をやめなかったと聞いてホッとするナグリ。

「でも休暇届なら出してきましたよ」

「て、店長が休暇届け」

 ホッとしたのもつかの間、ナグリすらも唖然とさせるサイビンの行動、照れ隠しのためか、ずれてもいないのにメガネの位置を掛けなおす。

「レースチームとしてウィングショップとのコネは有益ですよ」

「確かにそれは、助かりますが」

 ハチニーのパーツを揃えるだけで牧場経営が傾きかけた現状ではナグリたちは頷くしかない。

「わしら三人も白に魅入られた者たちというわけじゃ」

 カートスが自慢の髭をなでながらホホホと笑う。

 この年配者たちはとんでもない行動力をシェルたち若い三人に見せつけてきた。

 これは白いドラゴンがおこしてくれた奇跡の一つかもしれない、彼らはライフ牧場のチームに参加するためにこれまで築いてきた地位を捨ててきてくれたのだ。

 シェル、ナグリ、ハルナの三人は姿勢をただし業界の先輩たちの前に整列する。年配者たちの覚悟をしっかりと感じた、これを無下にすることはできやしない。

「よろしくお願いします」

 どちらが雇い主か分からなくなる光景だが、不満を口にする者は誰もいない。

「新生ライフ牧場チームの誕生じゃな」

 一番の高齢であるカートスが宣言する。

 ここライフ牧場で、若い情熱と経験を蓄積したベテランが一つになったチームが結成された。

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