第29話 先行逃げ切り
スタートのために衝撃吸収の川(クッションリバー)に浮かべられた開始の小島(スタートグリッド)。ドラゴンダービーは本戦、予選、あわせてすべてこの開始の小島からスタートする。
フリー飛行を終えたライトが、くじで引き当てた先頭のポジションに舞い降りる。
前には一頭のドラゴンもいない最高のポジション、シェルは小島で待機していたナグリに手を振って喜びを現した。
「翼に問題はないな、ライトの調子のよさそうだ」
「バッチリよ、勝つための条件はすべて揃ったわ」
シェルに同調してライトまでもが得意げな顔をしてみせる。
「トップのポジションなら遠慮はいらない、先行逃げ切りでいくぞ。作戦通りに十二周のうち四周ごとに翼交換をするから四周目と八周目にピットに戻ってくれ」
「任せて、必ず先頭でピットインしてみせる」
最高のコンディション。ただ一つナグリたちの懸念はチームスタッフの少なさだけ、それを補うためにもシェルはどうしてもトップで飛ぶ必要があった。
スタートを告げつ三つの魔法水晶に黄色いシグナルが灯った。この灯りを合図にワークマンは開始の小島から離れなければならない。
「全力でサポートする。全快で行ってこい」
「うん」
ナグリは自分のできることをすべてやりピットに戻っていく。
黄色いシグナルが青色に変わり、もうスタート直前だとドライバーに知らせる。この三つの青い灯りが一つずつ赤色に変わっていき、三つすべてが赤色になった瞬間がスタートの瞬間である。
「スタート・ユア・ウィング」
スタート前、一番注目があつまる一番目の位置ポールポジションでその白い身体と白い翼を広げ、白銀の魔法陣を展開し回転させる。
他のドラゴンたちも魔法陣を回転させ、開始の小島周辺は魔力風が吹き荒れる。
川の水は波紋を作り、レース場のボルテージ最高潮に盛り上がっていく。
三秒前を告げるブザーがなり、シグナル魔法球の一つ目が赤く発光する。
レバーをしっかりと握りしめ、シグナル魔法球の二つ目が赤く発光する。
全神経が最後のシグナルに集中する。瞬き一つせず刹那のタイミングを見逃さないよう。
そして最後のシグナル魔法球が赤色に変わった。
「ゴーー!!」
大空へ一斉に飛び立つドラゴンたち、その先頭にいるのは予想屋アイドルに大穴といわれた白いドラゴン。
「ライト!」
フライング判定は出ていないライトは完璧なスタートダッシュを決めてみせた。後方からせまるドラゴンの群れを寄せ付けることなく、第一コーナーに突入する。
レバーを倒しライトの身体をコーナーに合わせて傾ける。
ジャマするものなどいない、最高のラインを描き防風林を擦るようにコーナーを抜け、直線で加速のための魔力を流し込み最高速度にもっていく。
正面からくる強烈な風にシェルの三つ編みがなびく、練習場の時はこれだけの魔力を流し込めば間違いなく翼はオーバーブローしていただろう。だが、このハチニーの翼は壊れるどころか輝きを増してさらに高次元へシェルを連れて行ってくれる。
「すごいよナグリ、私が全力の魔力を流し込んでもまったく壊れる気配が無い」
空気の壁を剣のように切り裂く翼。
この翼の限界はまだまだこんなモノではない、さらに上があるという手応えさえ感じさせてくれる。
「これはもう勝つしかないでしょ」
トップを維持したまま第二コーナーに突っ込んだ。
『さあスタートしましたドラゴンダービー予選トライアル第一回戦。出場ドラゴンは全14頭。実況も私ミュウがやっちゃいます。そして解説は』
『ドラゴンレース解説三〇年、フーク・ロウがやっていきます。よろしく』
ミュウの声に続き、落ち着きある男性の声が場内に流れていた。
『現在レースは第二コーナーを抜けたところ、これは驚きました。大穴のライフライトニングがトップをキープしています』
実況までこなすアイドルのミュウは見た目以上に器用なようだ。
『スタートポジションがよかったからですね、翼もハチニーにしては安定しているように見えます。ひょっとしたら前半戦はこのまま行くかもしれませんよ』
「前半だけで終わらすか、行けシェル、ライト」
ピットで見守るナグリが声援を送る。
『第三コーナーもライフライトニングがトップで抜け、最終の第4コーナー後方から二番手のマグマフェニックスがせまる。だがゆずらない、ライフライトニングゆずらない! 最終コーナーもトップだ大穴ドラゴン。ホームストレートで加速しちゃったよ、後続との差を開く、ダントツ、一周目ダントツで二周目に入ってく~』
『ライフライトニングは先行逃げ切りの作戦のようですね』
ナグリたちのいるピットの上を白いドラゴンが高速で駆け抜けていく。
先行逃げきりの作戦通り、ここまではパーフェクトなレース運びだ。
さらにラップタイムでも一番時計を刻んでいる。ライトは後続に影を踏ませることなく二周目もクリアして三周目へ。
「オーナー、タイム差は?」
「二周目で後続を6秒も離してるわ」
「よし!」
ナグリは力強く拳を握った。
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