第18話 翼の装着
「ナグリくん、翼はこの位置でいいかな」
翼はライトの両脇に置かなければならないので片側はハルナが台車を押していた。
「はい、ありがとうございます」
座るライトの左右に白い翼が並べられる。かつてライフサンダーが使用していたハチニーの翼がナグリの手によりライト用へと改修された。
一度大きく深呼吸したナグリが鞍と翼の間に立つ、いよいよ翼の取り付けが始まる。ライトから降りたシェルはナグリの邪魔にならないように離れた位置に移動していたハルナの元へ向かう。
シェルの中にわくわくする気持ちが心臓の早鐘を鳴らしだした。
「魔力回路始動」
翼に命を吹き込む魔法の言葉、機械の翼に命の炎を。
夜の暗闇が支配する牧場に青白い魔方陣が浮かびあがり、翼がゆっくりと鞍のくぼみに繋がっていく、これが科学と魔法の融合。
繋ぎ目の部分から少しずつ翼に魔方陣の光が伝わっていき翼全体が淡い光を纏う。魔法で擬似的神経を作り繋ぎ合わせ、ドラゴンの意思で翼が自由に動かせるようになる。
羽膜の隅々にまで血液の代わりに魔力が注がれ体の一部となる。
これは進化といっていいだろう。地上最強の生物が空の覇者へと進化していく。
「全魔力回路始動」
全ての工程を終え翼がドラゴンと一体になった。
ここに新たな翼持ちしドラゴンが誕生する。
翼をドラゴンに取り付けるためには、大きく分けて三工程が必要である。翼をドラゴンに繋げる接合、接合部分から魔力で擬似的神経を構成して、動かすための力である魔力という血液を流し込む。
その工程をもう片方に翼にも施し、ライトへの翼の取りつけは完了した。
左右の翼は間違いなくライトの意思に従い上下しライトは歓喜で喉を鳴らした。
しかし、まだこれだけではライトは自由に空を飛べない。
ドラゴンほどの巨体を浮かび上がらすには浮力を得る魔力が足りないのだ。その足りない魔力を補う存在こそ空飛ぶドラゴンにとって最良のパートナー、ドラゴンドライバーである。
「翼を君に託す(ユー・ハブ・コントロール)」
ナグリはすべての仕事を終え、操縦レバーをシェルに差し出す。
「翼、確かに受け取った(アイ・ハブ・コントロール)」
レバーを受け取ったシェルはライトにまたがった。鞍の窪みにレベーを差し込むと、シェルの魔力が翼全体にいきわたる。
「いくよライト」
シェルの魔力をうけた翼はライトと共に白い魔力光を放ちだす。
ライトの咆哮が夜空に響き、翼がゆっくりと開かれた。
「よし」
その動きを見たナグリが両の拳を握った。翼の動きに違和感はなく、生まれたときから翼が体の一部であったような自然な動き、ナグリがワークマンとして仕事をやり遂げた証拠でもある。
「お願、サンダー、ライトに力を」
離れて見ていたハルナは、両手を祈るように強く握りしめていた。願うのはただ一つ、もう一度白いドラゴンに空を飛ぶ力を。
翼後方に飛翔するための魔法陣が浮かび上がる。
シェルの体が魔法で鞍に吸い付き固定され、例え空中で宙返りしても振り落とされることはない。
翼の輝きがゆっくりとしかし確実に強まっていく。
いける。確かな手応えをシェルは感じた。
そして空を飛ぶためのキーとなる魔法の呪文を唱えた瞬間。
「スタート・ユア・ウィン――」
――――バッーーン!!――――
風船が破れるような破裂音。
シェルの視界が真っ白に染まり、ライトの背中から自分の体が落ちていくのを感じた。
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