第15話 決意の宣言

「お客さん、ハチニーの翼でレース出るつもりで?」

「はい」

 しっかりと答えたナグリに対してさらに笑いが起きた。だがどんなに笑われようがナグリはまったく気にした様子はなかった。

「やめておけ、勝ってこないぜ」

「そうそう、無理だ無理、時代が見えてないぜ」

 腹を抱えて笑っている男性客たちが目の涙を拭いながら忠告をしてくる。

「使いこなせば、今でもハチニーの翼はここに並んでいるどの翼よりも早く飛べる」

 あくまでもそれが事実ですというように淡々と言い切った。

「いってくれるじゃないか、勉強不足の駆け出し新人には分からないだろうがな、ここの翼はどれも最新の技術で作られた物だぞ」

 なぜか、店員でもない客が店の翼の自慢をする。

「見ればわかる」

 ナグリは近くにある群青色の翼を指差す。

「これは先月に王国研究所(アカデミー)が発表したⅤ型六連多重魔法陣をはじめて実戦搭載したブルーライン。比率ゴーゴーの次世代翼の代表。隣のは南地区で半年前に開発された耐久性を保ちながらも軽量化に成功したハルバートエボリューション。比率は同じくゴーゴー」

 並ぶ翼の詳細をつらつらと述べるナグリに店長や客だけでなく、シェルとハルナも驚きの表情を浮かべていた。

「よく勉強していますね」

 ナグリの知識に店長のメガネ紳士は素直に賞賛したため、翼の自慢をして笑っていた客たちも勢いがなくなる。

「竜翼職人なら当然だ。ハチニーに憧れるただのバカだと思ったか? あいにく俺はただのバカではなく」

 ナグリは拳を握り親指をたて、自分を指す。

「白バカだ。現存するすべての翼を研究して強さを学び、それでもハチニーの翼が今でも最強であると信じている白バカだ」

 微かにナグリの握り僅かに震えていたのを隣にいたシェルだけが気がつく、ナグリもこれまで周囲からさんざんバカにされていたのだろう。それでも、現行の数々の最新技術を使われた翼を見ても十年前に見た白いドラゴンのハチニーの輝きの方がナグリには強烈なインパクトがあったに違いない。

 この時を境にシェルはナグリのことを白バカ同盟の盟主にすることを勝手に決めた。

「好きが故のひいき目があるのは認める。だから――」

 どんなにバカにされてもそこに目指した夢があるのなら、そして、そこに届く手段があるのなら抑えることはできない、だから、あとは―― 。

「――ハチニーで勝てばいいだけよ」

 ナグリのセリフをシェルが引き継いだ。

「笑いたきゃ笑いなさい、私たちはライトとハチニーでダービーに挑むわ!」

 ナグリを押しのけ店長の前に割り込み、握り拳を作りながら宣言した。

「そして勝つ!!」

「シェル、熱くなりすぎだ」

「あんたの言葉で熱くなったでしょうが!」

「そいつはありがとよ」

 シェルの熱さに押された客たちはからむのをやめて、せいぜいがんばりなと捨て文句を残して離れて行った。

 ようやく静かになった所で準備してきたリストを店長にわたした。

「用意できますか?」

 リストに目を通したメガネ店長があまりの量の多さにうなった。

「本気でハチニーを使うつもりなのか」

 リストに載っていたのはどれも十年前に作られた古いパーツばかり。

「はい」

 ウィングショップの店長なら、ナグリのリストを見れば使う目的は一発でわかる。

「すぐに用意はできますが、けっこうな量になりますよ」

「外に竜車が止めてあるから問題ないです」

「わかりました。外までお持ちしますので荷台の準備をしていてください」

「あっさり売ってくれるのね」

 簡単に買えたことにハルナは拍子抜けした。バカにする者が多いハチニーのパーツ、在庫があった事にも驚きだ。

「当店は国内一の品数が売りですし、これだけの量を買ってくださるなら、店としては上客ですから丁寧な対応になるのは当たり前です」

 店長は嬉しそうにリストを指で叩いた。


 行きとは逆に大量の荷物を載せた竜車がライフ牧場へと帰ってくる。

 三人はバケツリレーの要領で荷物を運び込み、これでやっと作業に取り掛かれる環境が完成した。

「ようやく作業に入れるな」

 ナグリは腰に工具ベルトを巻きつけると、一つ大きく深呼吸して作業場へと生まれ変わった倉庫の中へ。

 その横顔を見たシェルはドキッとしてしまい顔が熱くなる。

「シェルちゃん、どうかした?」

 黙りこんだシェルをハルナが覗き込む。

「え、いや、なんでもないです!」

「そお?」

「はい、ホントになんでもないです」

「ならいいけど」

 倉庫の中より、作業を始めた音がわずかに聞こえてきた。

「夢をまっすぐに追いかける男の子ってかっこいいよね」

 シェルはまたドキッとさせられる。

 まさか考えていたことがハルナの口からでてくるとは、どうしてわったのか聞こうとしたら、ハルナは作業場の入り口を見つめていた。

 シェルのことを言ったのではなく、自分の感想をのべただけだと気がつき、安心した反面、ナグリを見つめるハルナにシェルは少しモヤっとした気分になる。

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