第13話 最初の儀式
「あの~」
翼製作の話しに置いてけぼりにされたシェルが、恐るおそる話しかけた。
「なにシェルちゃん」
ハルナがピックアップリスト片手にふりかえる。
「なにか必要な物があった?」
「いえ必要な物じゃないけど、私は何か手伝えることはないかな~って」
片付けが終わり仕事が無くなったシェルは二人が作業しているのに、ただいるだけというのは居心地が悪かった。
「そうね」
ペンを顎にあて考えるハルナだが、特に何も思いつかずナグリを見る。
「俺の方も特にないです」
「そっか~」
シェルはがっくりと肩を落とした。
「ドライバーなんだし、相棒になるライフライトニングとコミュニケーションでもとってきたらどうだ」
「いいんですか!?」
あまりの落ち込みようにナグリが手伝いではなくドライバーとしてのシェルにしかできないことを提案した。それを聞いたシェルはガバリと首を持ち上げハルナに伺いをたてる。
「そうしてあげて、あの子も喜ぶと思うから」
「了解しました」
牧場主の許可をもらうと、シェルは突風のように倉庫から飛び出していった。
「元気なヤツだ」
ハルナがくすくすと笑う。
「二人はいいコンビね」
「そうですか?」
「ええ、出会って数日なんてとても思えないわ」
必要最小限の言葉で会話ができて相手の望むものを察せられる。これは付き合いだした恋人以上に互を理解している証拠だろう。
「大通りで白いドラゴンを乗せた竜車を見かけたら足が勝手に追いかけていて、いつの間にか隣にシェルが走っていた」
つなぎの胸ポケットから一枚の古い写真を取りだしハルナに見せる。
「目があった時にすぐに理解できました。俺と同じ『白に憧れた同類(白バカ)』だと」
写真には翼を大きく広げたライフサンダーが写っていた。
「白バカか」
外から大声でライフライトニングに話しかけるシェルの声が聞こえてきた。
「私はシェル。シェル・サリューズ。今日からあなたの専属ドライバーになるはよろしくね」
放牧地でくつろいでいた巨大な白いドラゴンであるライフライトニングの真正面に立ち物怖じすることなく自己紹介。
「ライフライトニングじゃ呼ぶとき長いから、これからはライトって呼ぶわね」
ライフライトニングは見定めるように首を持ち上げシェルを見下ろしてくる。
「よろしくライト」
シェルが一歩前に進み出る。
「…………」
ライフライトニングは黙ってシェルの真っ直ぐな視線を受け止める。
人を乗せるために調教された競争竜であっても誰でも背中に乗せるわけではない、当たり前のことだがドラゴン一頭一頭にも個性があり好きと嫌いがある。
シェルは待つ、ライフライトニング、いやライトが自分を認めてくれる瞬間を。相棒となるドラゴンに認めてもらうことドライバーとして専属になるための儀式だ。
やがてライトがシェルから視線を外した。
まさかドライバーとして失格したのかと焦ったシェルだが、ライトは一歩後ろに下がると体を反転させ背中を見せた。
さらにシェルに乗れというように膝を曲げてくれたのだ。
「ありがとう」
お礼を一言、ためらうことなく硬い鱗でおおわれた背中に跨る。シェルはライトに乗ることを認められたのだ。
「これからよろしくね」
シェルがライフライトニングに認められた。その様子は倉庫の窓からナグリたちによく見えていた。
「第一関門クリアしたようね」
「このくらいでもたつく様なら白のドライバーは務まらないですよ」
「辛口ねナグリくん」
「もたつくなんて初めから思ってなかったですから」
ドス! ドス! ドス! と倉庫の外から地鳴りと振動が近づいてきた。ハルナは補充リストを落としそうになる。
「ハルナさん、ライトとちょっと走ってきていいですか!」
窓からシェルの声が飛び込んでくる。白いドラゴンに乗って満面の笑みになっている彼女はすでに走る気満々だった。
「いいわよ、検査中ライトもせまい檻の中ででストレスも溜まってたから、ちょうどいいわ」
「ありがとうございます!」
シェルがライトの首を二回叩くと、ライトは身体を翻し放牧場へ向かって駆けだしていく。
「鞍もレバーもなしによく操るな」
翼を付けてないドラゴンが地上をかけていく、背中に乗るシェルはその振動を全身でうけているはずなのにバランスを崩す様子はない。
姿勢を安定させる鞍も使用せずに乗りこなしていた。
「ひょっとしらた彼女、とても優秀なドライバーになるかもしれないわね」
ライトの背中に乗るシェルの笑顔は輝きに満ちていた。
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