第7話 出会い
「や、やっと、とまった……」
あれからどれくらい追いかけただろうか、一つの牧場の前でようやく竜車が停止した。
シェルと少年は立っていることもできず膝を突きその場に崩れ落ちる。シェルはかすむ視界の中で、牧場の建物から一人の少女が出てくるのが見えた。
長いサラサラとした黒髪を後ろで一括りに結わいている大人しめ少女、歳はシェルより少し上だろうか、黒髪の少女に出迎えられ、竜車よりドラゴンレース競技委員会の制服である黒い礼装を着た立派な顎ヒゲの初老の男性が降りてきた。
「お待ちしていました」
深々と頭を下げる少女に男性は頷いて答える。そして顎ヒゲをなでながら、穏やかな声色で語りかけた。
「よくがんばったの、検査の結果はこのドラゴンの色と同じように真っ白じゃ」
ドラゴンレース委員会の正式な検査書が黒髪の少女に手渡された。
検査、ドラゴンレース委員会の職員、そして白いドラゴン。これらのキーワードがシェルの中で一つの解答を導き出させる。委員会が白いドラゴンに対してする検査など他に考えられない。
あの検査は白い系列がレース界から姿を消さざるおえなかった原因、感染病のことではないのか。
「ありがとう、ございます」
黒髪の少女は検査書を目と通し、何度も何度も読み返し、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
もしシェルの推測があっているなら、あの黒髪の少女はあの白いドラゴンの所有者、オーナーのはず。
レースにも出られない競争竜を維持し続けることが、どれだけの苦労を重ねたかドライバーのシェルには想像できないほどの苦労があったのだろう。
「本当に、ありがとうございます」
長い黒髪が揺れ、少女はさきほどよりも深々と頭を下げた。流れ続ける涙がとても貴く感じられた。
「ハルナちゃん、よくこのライフ牧場を守り抜いたな」
「は、はい」
涙が喉に掛かった声。
ハルナと呼ばれた涙で震えている少女の肩に老人がやさしく手を置いた。
「…………君たち、白いドラゴンのファンかね?」
ハルナが落ち着くのを待って、男性がシェルと少年に話しかけてきた。
「はい、そうです」
喋れるまでに回復したシェルは答えるが、まだ息が上がっている少年は崩れた姿勢のまま、なんとか頷くことで肯定した。
「そうか、そうか」
嬉しそうに髭をゆらす男性。
「若者の中にもまだ白の系統は生きていたんじゃな、てっきりひにくれた老魚が釣れると思っておったのじゃが、まさかこんな若魚とはの」
嬉しそうに立派な顎髭を撫でる。
「真っ直ぐな目をしておる。想ったより大物が釣れたかもしれん」
「カートスさん、それはどういう意味ですか?」
黒髪の少女ははじめてシェルたちに気がついたらしく、涙を隠そうと赤くはれた目の涙を拭った。
「お嬢さん、あなたは竜の騎手じゃろ、委員会事務所で何度か見かけたことがある」
ハルナの質問にはニヤリと笑うだけで流すと初老の男性カートスはシェルの職業を言い当てた。
「少年は格好からして竜翼技師じゃな」
練習場のダンと似たような服装、この格好を見て他の職業は浮かんでこない。
「正解です」
遅れてようやく回復した少年が立ち上がる。
「このドラゴンを檻から出してやりたいのだが、手伝ってくれるかね」
「もちろん!!」
シェルと少年の言葉が重なった。
力の入らなくなった足に気合を入れ、竜車に飛び乗る二人、それにハルナが続く。
競争竜が収まる巨大な鉄の檻が載る竜車は三人の少年少女が乗ってもびくともしない、檻の中で横たわる白いドラゴンが首を持ち上げ、金色の瞳で三人の若者を見つめてきた。
「白い」
幻と、もう存在しないと言われ続けていたホワイトドラゴンがシェルたちの目の前にいる。
理由など分からない、ただシェルは自分の生涯をかけてもいいと思える夢を与えてくれた存在が目の前にいる。
「このライフ牧場のオーナーでハルナといいます。はじめまして」
「は、はじめまして、私はシェル、シェル・サリューズ、白いドラゴンに憧れたドラゴンドライバーです。今年、ドライバーライセンスを習得しました」
「ナグリだ。ドラゴンウィングワークマンの専門学校に通っている。白いドラゴンのハチニーの翼を復活させることが目標です」
ハルナはシェルとナグリに対しての自己紹介であったが、二人はハルナも含めて白いドラゴンにも聞かせるように自分を紹介した。
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