第5話 白は思い出
「嬢ちゃん、こいつはなホワイトドラゴン系最強にして最後の競争竜だったんだぜ」
いかつい顔に少年のような瞳をしたダンが昔話を語りだした。
「俺は当時、ライフサンダーの一番のライバルと言われていたレッドドラゴンのマグマリウスのウィングワークマンをやっていたんだ、今でこそ練習場付きのワークマンなんぞに成り下がっちまったが、俺が現役のころは白のサンダー、赤のリウスって言われてそれは騒がれたもんよ、街を歩けば必ずこの二頭の名前が聞こえてくるくらいに、それでな――」
熱弁するダンの言葉はシェルの耳には入っていなかった。
彼女の意識は写真の白いドラゴンに全てが持っていかれていたから。
「――今でも思い出すぜ、最終コーナーを抜けたホームストレートでサンダー必殺のコーナリング、打ち抜く白き稲妻ホワイトサンダーを決められてリウスはくしくも二着どまり、って聞いているのか嬢ちゃん?」
「ねぇダンさん、ホワイト系はこの国にいないの?」
「なに言ってるんだ、ホワイトの系列はもう十年前に途絶えたよ。さっきも言ったろ、この写真のヤツが最後だって」
今のレース界には白の系列はいない、ドライバーであるシェルなら知っているはずのことである。
「私、ホワイト系に憧れてドライバーになったんだ」
写真の翼を指でなぞる。
シェルがドライバーを目指した切っ掛けは幼いころに見たドラゴンダービー、真っ白なドラゴンが一着でゴールし勝利の咆哮をあげた姿が今でも鮮明に思い出せる。
「……昔は多かったがな、まだホワイトのファンが残っているとは驚きだ」
「いまじゃ、嫌われ者だもんね」
「運がなかっただけさ」
ため息を付くダン、上がっていたテンションも一緒にダウンしたようだ。
「東洋の国のドラゴンとの配合で生まれた白いドラゴンが伝染性の血液病にかかった。強すぎるゆえのやっかみも合ったんだろうな、血液病にかかっている、いない、関係なくホワイト系は全て隔離処分されたって噂だからな」
「帰ります」
サンダーをの写真をダンに返す。白いドラゴンはシェルにとって憧れであり夢そのもの、例え噂であっても悪評など聞きたくはなかった。
「今日の穣ちゃんの運勢は北だそうだ」
「なんですかいきなり」
「これに書いてあった」
ダンは受付に置いてあった新聞を掲げた。ドラゴンレースの出走表の下に小さく載せられている今日の占い覧を指す。
「なんで私の生まれた月を知ってるんですか?」
「受付をするとき、履歴を書いただろうが」
「そんないい加減なモノ信じるんですか」
「嬢ちゃんの運勢は水難に注意、これは当たってたぞ、北に向かえば待ち人来るだそうだ、どうせ今日はもう飛べないんだから男とでも遊んで憂さ晴らししてこいよ」
がははと笑うダンの声を背中で聞き流しシェルは練習場を後にしていった。
シェルが北に向かって歩いて行くのを確認したダンはニヤリと企みのあるような笑みを浮かべる。彼女が北に向かったのは占いを信じたからではなく住んでいる場所が北の方角にあることはダンも知っていた。
「ダンチーフ、落水した翼の調査が終わりました」
シェルと入れ替わるようにツナギを着た若い翼技師がダンの元へやってくる。
「原因は内側からの魔法回路のオーバーブローだろ」
「どうしてわかったんですか!?」
若手翼技師の反応でダンの推測が正解だとつげる。
「俺ぐらい一流になればドライバーの飛び方を見れば大よその検討はつけられるんだよ」
「飛び方って、彼女、今年ライセンスを習得した新人ですよね、流し込み過ぎて翼を壊すほどの魔力を持っているんですか、そんな膨大な魔力一流ドライバーだって一握りしかいませんよ」
ドライバーの魔力は訓練で伸ばすことができる。
一流にもなれば強くなり過ぎた魔力が翼に収まりきれずオーバーして破損させることはあるが、新人がそれをやるなんてレースが盛んなこのドラゴダート王国でも聞いたことが無い。
「しかし、あのドボンクイーンの三回の落水は全部がオーバーブローによるものだぜ」
若手翼技師の喉がゴクリとなった、それが真実ならば疑う余地が無い。
「魔力だけなら、すでに一流ドライバー並ですか」
「いや、それ以上かもしれないぞ」
「冗談ですよね」
「もしかしたら、今年のドラゴンダービーは一波乱あるかもそれないぞ」
ダンはもう一度シェルが歩いて行った北の方角を見つめてから時計で時間を確認してニヤリと笑った。
「白い嵐が巻き起こるかもな」
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