第3話 練習からのレース

 体の軽いフランがスタートダッシュに競り勝ってレッドドラゴンの前に出る、このままコーナーをクリアして差を大きく広げられればシェルの勝ちが決まる。

「今度こそ」

 さっきの反省を踏まえ、わずかにスピードを抑えてコーナーに突入する。内側の最短距離を突き進み理想に近い形で曲がっていく、しかし、レッドドラゴンはシェルよりも早いスピードで外側に突入した。

 レッドドラゴンのパワーを生かした豪快なコーナリングでフランよりも早いスピードで飛びながらも強引のコーナーをクリアする。

直線に戻ればレッドドラゴンの方が頭一つ分先になっていた。

「負けるか!」

 シェルは慎重さを捨てありったけの魔力を流し込み加速させ、ほぼ同速度となった青と赤のドラゴンが競り合う。己の方が強いことを証明するために牙をむき出し、ほんのわずか鼻先分だけでも相手よりも前に出ようと首を伸ばすドラゴンたち。

 魔力の多さだけなら一流ドライバーにも負けないと自負するシェルは、長い直線での加速こそが自分の最大の持ち味だと思っている。

「ここで勝負!!」

 次のコーナーに入る前に勝負をつけるとスパートをかけた。流し込んだ魔力で翼が光を放ち全速飛行を開始するはずであったのだが。

 パスッーっと風船から空気が漏れるような音と共にスピードが上がるどころか、どんどんと遅くなっていく。

 そして微かに何かがコゲたような臭い。

「まさかっ!?」

 レッドドラゴンとの対戦レースですっかり失念していた、翼の用量以上に魔力を流しこんでしまい、伝達回路がショートして翼の飛行術式がオーバーヒートしてしまったのだ。

 バチバチと、異音を発して翼は浮力を失う。

 飛ぶ力を無くしたドラゴンと少女はきりもみをしながら、衝撃吸収の川クッションリバーへ叩き付けられる。

 普通の水であったなら高速で叩き付けられれば水は鉄のように固くなるが、最初から落ちることを想定されていた川はスライムの体のようにシェルとフランを優しく受け止めてくれた。

 水面から顔を出したシェルの瞳に映ったのは飛び去っていくレッドドラゴンの背中、この対決はシェルのリタイア負けとなる。

「次にあったら絶対に勝つんだからッ!!」

 小さくなっていく後ろ姿に悔しさを込めて叫んだ。

レッドドラゴンが完全に見えなくなると、シェルは全身の力を抜いて川に浮かんだ。

「ごめんねフラン」

 心配そうに泳いで近づいてくるブルードラゴンにレースで負けたここと川へ墜落させてしまったことの二重の意味をこめて謝る。

 フランは気にするなと言うように鼻を鳴らすと、ドライバースーツの襟首を咥えて引き上がると鞍へと座れせてくれた。

「ありがとう」

 シェルは労いの言葉をかけ首をさする。

「そう言えば翼は!?」

 コゲた臭いを出していた翼、水面に叩き付けられてどうなったのか、肝心なことを思い出したシェルが慌てて確認するが――。

「……嘘でしょ」

 翼のあった位置には何もなくなっていた。

 フランがガウと一鳴きすると、その長い首が水面に潜り、川の底からボロボロの状態の翼を拾いあげた。水が滴る物体となったそれは、翼膜はやぶれ骨格は原型が分からないほど折れ曲がっていた。

「これはもう全損ね」

修理不可能なほどの損害。

 無事な部分が見つからない。

 太陽が登り切り、薄らと残っていた朝霧も澄み渡る青空へととけて消え、キラキラと太陽を反射させる川がゆっくりと泳ぐシェルとフランを照り返してきた。

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