第2話 ドラゴン王国の朝
剣のような尖った頂上を持つ霊峰ドラゴシン山。その尾根より太陽が顔をのぞかせると穏やかな海が朝日を反射させドラゴダート王国に朝だと知らせる。
大陸の最東端に位置する山と海に挟まれたドラゴダート王国、環境に恵まれ様々な種類のドラゴンが人の生活に溶け込んでいる。
そしてこの王国は大陸でもっともドラゴンレースが盛んな場所、国内のいたる所にドラゴンレースの関連施設があり練習場も大小合わせれば百をかるく超えている。
ドラゴン騎手、ドラゴンドライバーたちはトップでゴールアーチをくぐることを目標に太陽が昇るよりも早くから活動していた。
濃い赤桃色のドライバースーツに身を纏った少女も、三つ編みにした長い栗色の髪を風でなびかせながらブルーのドラゴンと共に練習場を飛んでいた。
「フラン、そろそろスピード上げるよ」
ウォーミングアップが終わり飛行速度を流しから実戦用へと切り替える。
長い首と尾を持ち刃を弾くほどの強靭な鱗、人を乗せても苦にしないその巨躯は生物最強といっても過言ではない。
フランと呼ばれたブルードラゴン系の競争竜は翼を力強く羽ばたかせることで、ドライバーの少女に答えた。
コースの下はすべてが川になっており、万が一ドラゴンが墜落した時でも大丈夫なように襲撃吸収の魔法が混ぜ込まれた水が流れ衝撃吸収の川、クッションリバーと呼ばれている。
フランの体を傾け、少女シェル・サリューズは水に写った自身の騎乗フォームの最終確認をすると鞍から伸びるレバーを握り直し魔力を自身の魔力を流し込んだ。魔力はレバーから翼へと流れていき淡い輝きを放ち始め、後方に魔法陣が浮かび上がる。
「今度こそ、大丈夫、慎重に慎重に制御するのよシェル」
自分に言い聞かせるように呟きながら徐々に加速させ時間をかけて最高速度にもっていく、練習コースの左右に植えられている防風林がドラゴンの翼より発せられた突風を受けて揺らぎ、衝撃の強さをものがたった。
直線が終わりコーナーへと差し掛かる。
狙うのは最良のコーナリング。早すぎれば曲がりきれずに防風林にぶつかってしまい、遅すぎれば大きなタイムロスにつながる。
ドラゴンレースでの優勝を狙うなら、曲がりきれるギリギリの速度でクリアするのが絶対条件、それにはレバーから翼へと流す魔力の加減と、翼の精密なコントロールが要求される。
減速を最小限にコーナーに突入、フランの巨躯が遠心力に押され外側へと膨らんでいく、あきらかにスピードオーバーであった。このままでは翼が防風林のぶつかってしまう。シェルは流す魔力を抑え速度を落とした。
ぶつかることなくコーナーをクリアすることはできたが、途中で減速した影響でシェルが脳内で描いていた理想のコーナリングはできなかった。
「甘く採点しても五十点がいいとろか」
百点満点の自己採点で五十点、ぶつからずに曲がり切ったことだけが加点であり、それ以外はすべてが減点だ。
「フラン、次のコーナーこそ完全クリアを目指すよ」
様々な種類のドラゴンの中で比較的穏やかな性格を持つブルードラゴン。ドライバーと認めた相手には素直に従うのだが、今回はシェルの言葉を聞き流し、しきりに背後を気にするそぶりを見せる。
「後ろから誰か来た?」
シェルが振り向くと同時にコーナーの防風林を震わせ、フランよりも一回り大きい真っ赤なドラゴンが飛びだしてきた。シェルよりも早い速度で完璧にコーナーをクリアしてきたレッドドラゴン。勢いを殺すことなくシェル達の頭上を追い越して行く。
レッドドラゴンの翼から生まれた突風がフランの体まで大きく揺らす。
「やってくれるじゃない!」
姿勢を立て直し全力で魔力を流し込む。
「行くよフラン!!」
練習場での追い抜きは別に反則行為ではない、遭遇すれば調整や力試しなどの理由で即席のレースなどは頻繁に行われている。
自分が失敗したコーナーを理想に近い形でクリアされた悔しさから、シェルはレッドドラゴンとそのドライバーにレースを挑んだ。
加速の魔法陣を展開してレッドドラゴンの後ろに張り付くように飛行する。これがレースを挑むときの合図であり、相手も加速の魔法陣を展開すればレースを承認したことになる。逆に加速をやめ道を譲ればレース拒否の意思表示。
レッドドラゴンが示した答えは――加速の魔法陣が展開された。
相手ドライバーがシェルを見て微かに笑みを浮かべた。体にフィットしたドライバースーツごしに見える膨らんでいる胸やくびれた腰などからドライバーは女性だと分かる。
「行くよフラン」
魔法陣が弾け、二頭のドラゴンが急加速する。
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