スナイパーとマークスマンの違いについて

 スナイパーとマークスマンの違い、というか実質スナイパーについてです。

 こちらを知ることができれば、マークスマンとの違いも理解できるんじゃないかな、と。

 その中でも今回話すのは『軍隊』でのスナイパーについてです。軍用狙撃銃と法執行機関向け狙撃銃とではかなり仕様に違いが見られるところからもお分かりいただけるかもしれませんが、法執行機関になると要される技能、知識、装備などもまた違ってきますので。



 まずスナイパーなんですが、誤解されがちですがスナイパーの役目は狙撃だけではありません。銃は持っていても撃たない場合もあるのです。

 スナイパーに任せられる仕事は、狙撃はもちろん少人数での偵察、周辺を見渡せる位置に陣取って味方や要人の援護や敵の動きの監視。対物ライフルとかを使って車だとか装甲の薄い目標への攻撃。あと敵兵器などの位置情報を味方に知らせて、砲撃や対地攻撃能力を有した航空機とか軍艦による銃以上の火力を持った兵器による攻撃を可能にしたりとかもするそうです。


 見張ってるだけなら、偵察だけなら簡単そう、なんてことはなく、これはとても高い技術を要するもので、スナイパーは狙撃技術だけでなく、それら全てをこなせるだけの技能がなければなりません。

 向かう現地の状況の確認はもちろん、気候や地形、土地特有の特徴(雨が降ると必ず川が氾濫して通れなくルートが有るとか季節や気象によって進行しにくい場所があるとか等など)を完全に把握して進行ルートを決めたり、どうやって進むかどう任務をこなすか自分で戦術を組む必要もありますし。

 

 スナイパーはだいたい二人以上で行動します。基本的に狙撃手 (スナイパー)と観測手 (スポッター)の役に分かれて、ですね。あくまで少なくとも二人、なので任務によっては三人目とかでライフルマンの護衛がついたりもするでしょう。

 スナイパーは狙撃技術はもちろん、味方との通信、連携の技術。敵地へ進行する際に必要な知識と技能、戦術を組み立てる技術も必要ですね。

 スポッターは観測用の光学機器を操作する技能とそれを正確にスナイパーに伝えて、さらにスナイパーを守るために周辺の監視や護衛、移動時は撃ち合いに不向きな狙撃銃を抱えたスナイパーの代わりに先導する役目も担います。

 一人倒れて任務遂行不可能、なんてことにならないように、基本はどちらもできるように訓練されるはずですよ。


 そんなスナイパーになるために必要な要素ですが、これが本当に多くて人間離れしてるので誰もが簡単になれるものではないのです。

 まず狙撃技術は必要ですよね。標的に一発で当てられるだけの技術です。本当に初弾で命中させることはとっても難しいですけど、高い命中率を叩き出せるようになるのはスナイパーとして当然です。そのために弾道を計算できる知識も必要です。これは絶対ですね。今はコンピューターでも計算可能ですが、ちゃんと自分で計算して数字を出せないといけません。機械なんて壊れたら役に立たないしそん時自分ができなかったらまずいですものね。数学できないとスナイパーにはなれないんですよ残念ながら。

 ちょっと撃つのが上手い、なんてレベルじゃ話になりません。自分が撃つ一発に味方の命運、もしくは国の存亡がかかっているかもしれないのですから。スナイパーになったからにはそういう任務が来ないとも限りません。

 

 

 そして忍耐力です。我慢できない撃っちゃおうなんて軽い気持ちでトリガーを引いて外してしまっては元も子もありません。

 どんな過酷な環境に置かれても平常心を保ち、常に最良の判断を下すためにも心も体も弱い人はスナイパーに向いていないです。


 あと大事なのはコミュニケーション能力、協調性です。

 スポッターとは当然として、味方とも連携を取らねばなりませんから俺は一人が好きなんだ勝手にやらせてもらうなんてそんなのがまかり通るのは漫画の中だけです。

 先述した味方の援護なんかだったら連絡を取り合ってお互いの状況を把握しておかねばなりませんから。好き勝手撃ちまくられても困りますもんね。

 

 あとは、あらゆる環境に対しての知識です。気候だとか、地質だとか。弾道は気候でも変化しますし進行する上でその土地に関する知識は必須です。

 それを踏まえた上で、狙撃技術やら味方の状況やらを考えて全部まとめた上で戦術を組むだけの技能が必要なのです。

 敵地への進行も、歩いて行くだけじゃなくてボートを使ったり場合によっちゃあパラシュート降下だったり水中だったり任務や場所によってはそういうこともありえるのでそれらに関する知識や道具を使えるってのもスナイパーに必要な条件でしょうね。

 

 進行するまでに環境の把握や進行ルートの構築、目標地点に達するまで敵にばれないような隠密技術、狙撃視点を選んでそこまでたどり着いたら周辺の観察やら標的の監視、狙撃タイミングとか逃走ルート、標的を撃つ順番を考えたり。とにかくやらないといけないことがたくさんです。

 そんなスナイパーとスポッターはどんな装備持ってるのかとか気になる方もいるでしょうけれど、多分任務によって異なるはずなのでなんともいえませんが確実に持ってるってのだけ一部紹介します。


 まずスナイパーですが、当然狙撃銃は持っています。銃に対応したサプレッサーもですね。あとは狙撃時以外に使用するライフル。大体アサルトライフルですかね。サブマシンガンだとかPDWは携行性はいいですがそんな拳銃弾みたいなのが届く距離まで敵に接近されることが稀でしょうしテロリストでさえボディアーマーを着込んでいる時代ですのでライフルの火力は必要です。あと拳銃もです。

 スポッターはスナイパーを守らないといけませんから、アサルトライフルとか遠くも狙えるマークスマンライフル辺りでしょうかね。こちらも拳銃は持つはずです。あとは、着弾を観測するための光学機器 (スポッティングスコープ)です。


 二人とも持ってないといけないものは、遠くを広い視野で観察できる双眼鏡や目標との距離を測るレーザー測距計、無線機、医療キット、サバイバル用品が入ったキット (地図やコンパス、ナイフなど)、夜間なら暗視装置一式とかですね。あと戦場の記録とかする紙とかもあるんですが、こういうのはまあ説明すると長いのでそういうものもあるよってことで。

 細かく書くともっとたくさんあるんですけれど、まあこんなものを持ってますよ、くらいに覚えておいてください。

 

 こんな感じで、スナイパーは少人数で行動が前提なので一人がするべき役目が多く、さらに重要な任務を任されるので責任重大です。それをこなせる力がないといけないのです。一般兵の何倍もの技能や知識、経験も必要ですね。

 それくらいスナイパーがもたらす恩恵が凄いってことでもあります。周辺を監視してくれるスナイパーがいれば味方は安心して進めますし、スナイパーが潜んでいてどこから撃たれるかもわからない状況では進むことは困難なので、スナイパーだけで敵集団の進行を遅らせることだって出来るんです。

 スナイパーになるのは大変です。なってからも大変です。心身ともに極限まで鍛え抜いた僅かな人しかなれない狭く辛い道ですね。



 次はマークスマンですね。

 こちらはスナイパーのように離れた位置から~とかではなく、自分が編成された分隊など出来る限り仲間と一緒に行動する人です。

 やることもスナイパー程多いわけではなく、遠くを狙撃できる人がそばに居てくれたら助かる、みたいなふわっとした役回りです。


 そんなマークスマンが使うマークスマンライフルと呼ばれる銃は、みんなといっしょに行動するのでそれに合わせた性能を要求されます。敵の弾が届く距離で撃ちあったりする可能性もあるので、連射が効くセミオートマチックのライフルなどですね。みんなが使ってるライフルの銃身を高精度の物に換装したり、大口径弾を使用するバトルライフルともいわれるような銃は射程距離が長いので、狙撃用のオプションパーツを組み込んで狙撃銃にしてみたりとか色々種類があります。有名所はバトルライフルのM14を改良したM14DMR、M16のような外見で狙撃用に調整されたパーツが組み込まれたMk12などでしょうか。

 射程はさすがにスナイパーライフルには及ばずですが、最近はセミオートマチックの銃でもかなり高精度を出せるようになっていますので、1000m以内なら割とカバーできる範囲だと思います。競技用の弾なんかも使えば、元の命中率も合わせて正確な射撃が可能でしょう。精密射撃用の専用弾なんかも合わせて開発されているマークスマンライフルもあります。

 海兵隊のM16A4でおおよそ500か600mくらいが有効射程ですし、銃身の短いM4になればもっと精度も射程も下がります。それに普通の兵は遠距離狙撃用の照準器をつけていないと思うので、実際の標的に当てられる距離はもっと手前になるでしょう。ACOGタイプの照準器でもそこまで倍率は高くありませんし。なのでそれより先を狙えてちゃんと当てられる銃を持ってる味方がいるってのは、非常に心強いですね。

 

 そんなマークスマンはみんなよりちょっと射撃が上手いとなれるようです。やることもみんなとそれほど変わらないので、銃がマークスマンライフルに置き換わっただけ……とも言えませんが。だいたいそんな認識でいいとは思います。

 7.62mmのM14とかもですが、仲間と弾倉や弾薬を共有できるM16系をベースにしたマークスマンライフルを使ったり、まあこれは国によって様々です。

 アサルトライフルやカービンをベースにしても、競技用弾やちょっとした改良で射程距離や精度は伸ばせますのでマークスマンライフルは既存のライフルを改良したものであっても元以上に精度は良くなっているものが大半だと思いますよ。


 

 これがスナイパーとマークスマンの違いです。

 射撃が上手いだけでなれるのはマークスマンで、あらゆる作業をこなせてかつ頭も良くて体も丈夫で超人的な人がスナイパーになれるのです。

 

 まあだからって、漫画や小説に出てくる狙撃だけが上手い人はスナイパーじゃないのかと言われれば、微妙なところです。

 そういう人ってみんなと離れて後方や別地点から狙撃支援しますし、役割的にはちゃんとスナイパーなんですよね。ただ素養があるかと言われればそれもまた微妙ですけれど。独断行動が多かったりたまに頭悪いけど狙撃は出来るみたいな人もいますし、少なくとも軍のスナイパーは無理でしょう。

 ラノベとかだと学生スナイパーなんかもいますし、創作上では特にスナイパーの要素が欠落してるからコイツはスナイパーじゃない!なんて決めつけたり無理にそれらしい設定にしたりせずとも、狙撃できればスナイパー、くらいの感じでいいんじゃないでしょうか。

 ただ、リアルを重視したり元軍人とかそういう設定があるなら、スナイパーの必要要素くらいはおさえておいたほうがいいかも知れませんね。まあどこぞの小さい国の軍隊出身、とかで軍の練度や装備も大国には遠く及ばないとかなら技能の低いスナイパーとかもありでしょうけれど。

 

 スナイパーは簡単になれるものではないってのと、決して狙撃だけが取り柄の人達ではないってのだけ心に留めておいてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る