3.

「ミィナちょっとそれはまずいんじゃない」


「何がまずいのよ、別に変な意味ないから考えすぎだよリズは、ただ、譲ってあげるだけ、それに話しやすい人が隣の方がいいに決まってるじゃん」


 小声で言ってるつもりだろうが全部丸聞こえだよ。


「じゃ黒嶺は天月の隣でいいか」


「自己紹介がすんだ所でこの後は集会だから皆移動な」


「「えぇー」」


 何か申し訳ない。


 どうせさっきと同じ扱われだろうが集会に出るのが今日の目的だしな。何も分からない俺には目の前の事に従うしかないんだよなーくそーマジえる。醜態しゅうたいをさらすぐらいならほんと早く消えてーつか、元の世界に戻りてー。



 ――集会所。


 集会所と銘打めいうっているがただの体育館だ。普通の体育館よりか広いけど、広いと言っても学校としてはの範囲でだが。それにしても見慣れたバスケのフリースローラインが見える。ああゆうところを見ると落ち着くと言うかなんと言うか。


 何度も見てわかっちゃいるけど、ここは異世界だ制服の生徒以外にもやはり武装した奴もいる。


 俺は教師等に混じり壁側で待機しながら、脇に立つ冷徹女もとい九条に愚痴ぐちっている。


「ここで何すんだ? 皆に紹介してもしょうがない人間だぞどうせ」


「そんなのお前と喋ってれば分かるからとりあえず黙れ!」


 流石冷徹女だ。予想通りの返答だった。


 今、登壇して演説しているのは昨日会った令嬢風の少女だ。確かアリスと言ったか、彼女の堂々とした演説っぷりは俺には出来ない芸当だ。流石、生徒会長と言うべきか、緊張すら感じさせない堂々とした態度は取り巻きが居ただけあって凄みがある。若くしてカリスマって奴か。


「皆に報告があります。半年後に三校による神聖剣舞祭しんせいけんぶさいが開かれる事になりました」


 神聖剣舞祭って何だ? 祭と言うんだから文化祭的な奴か? どんな事するか楽しみだな。


 集まっている中には歓喜する者や静かに聞いている者もいる。まあ楽しみではあるけど、どっちかと言うと、やるより見るのが好きだな文化祭は。


「三校共同になるにあたって私くしが先日、合同会議に参加したさいに協力を願いまとまった神聖剣舞祭は皆の協力なくして実現はできません。なのでどうか協力の方お願い致します。数年、行われなかったこの祭りが出来ることに私くしは心より感謝をしています。皆の経験や努力、日々鍛えた剣技や魔技、私たちの剣舞でシャフレヴェル騎士学園に栄光の花を咲かせましょう。神聖剣舞祭については、今後、情報が出しだい随時連絡します。そして報告をもう一つ。この学園に新たな仲間が加わったので自己紹介をして貰いたいと思います。では、黒嶺さんここに」


 マジか……登壇するのか……。


 いざ、登壇したものの俺は中々言葉がでない。


「えー俺は……」


 口を開いたその時、都合がいいと言ったらまずいのだろう。出入り口付近が騒がしくなり、あっという間に集会所は異様な空気に包まれていった。


 教師達は迫ってくるであろう不振な気配に反応し、出入り口前で包囲体制をとり腰に刺した剣を抜き身構えた。


 閉じられたドアの向こうに何かがいる。一番距離が離れている俺でもそれは感じた。


 集会をしている場合じゃないだろう。


「皆なドアから離れてくれドアの外に何かいる!」


 恐怖なのか興奮なのか、とっさに俺は避難を促した。


 今の俺は戦える訳ではない。そんな事は分かっている。今の状況では犠牲者を出てしまうそんな気がしてならなかった。そして、俺が知る限りの名前をマイク越しに呼び出していた。


「お願いだ。来てくれないか朔乃!」


「なっ! 何で私が!?」


「朔乃ならきっと今の状況をなんとかできると思うんだ。頼むよ」


「クズ嶺に指図されるのは気にくわないけど、そこまで言うなら……うん……もお、分かったわよ行けばいんでしょ」


「すみませんが、アリス会長も」


「私くしですか!?」


「後、シリル。葵もお願いだ」


 生徒達は騒動に対し身を寄せる。多くの生徒はステージ側に控え、武装した者はその者達から距離をとりドアの方向に剣や銃などを構える。


 俺は呼び出したメンバーに問いかけた。


「来たばかりの俺が何だけど。忠誠ロイントというのは皆できるものなのか?」


 俺の初心者染みた質問にアリスが口を開いた。


「確かにここにいる者はできますけど、それがどうかしました?」


「良かった。それなら、アリス会長はシリルと交わして外の様子を見て来てほしいんです」


「なっ! 何を言ってるんですかあなた」


「僕が会長と? 本気で言ってるのかい? まぁ刻夜は昨日来たばかりの人間だから仕方ないけどさ、こっちにもいろいろ事情というものがあるんだよ?」


「詳しい事情は確かに知らないけど頼むシリル。本来なら言い出しっぺの俺が前線ぜんせんで闘うのが一番なんだろうけど、お前の魔技に頼るしかないんだ」


「フフ。僕を頼ってくれるのは嬉しいよ。それにしても闘った事がない人が前線なんて、僕も願い下げだよ。フフ。了解、騒動になってるのは間違ってないようだから、ここは刻夜に従ってあげるよ。アリス会長そう言うわけだから、擬似でいいからやりますよ」


「私くしが?」


「つべこべ言わずに、後で事情は僕が説明するからさ」


「それなら、このような事態なら仕方ないですよね」


「立場上は僕が王として会長が騎士でいいんだよね。刻夜」


「そう。それでいい」


「んで、会長に僕の魔技を使ってもらえばいいんだよね」


「あぁ。会長には悪いけど、偵察をお願いします」


「てっ! 偵察ですか? いきなり何ですか! この私くしに工作員に成り下がれと言ってるんですか!?」


「そうだ! アリス様を愚弄ぐろうするなど恐れを知れ変質者!」


 まだ変質者扱いなのかよ! まあ葵とも昨日あんな事になったから仕方ないのか? つか、俺が教室で受けた仕打ちの張本人じゃあるまいな? 


「どうした変質者言葉が出ないようだな。アリス様に屈服する事に決めたのか?」


「いやーそれより、葵が向けてるサーブルの切っ先に俺はたじたじなんですけど……」


「葵さん。今、内輪うちわもめしてられませんよ」


「はい。失礼しました。アリス様」


「黒嶺さん。今の所は君の機転に従ってあげますからこの場をどうにかしましょう」


「ああ、もちろんだ!」


「あのークズ嶺さーん。私の事忘れてませんか?」


「そんな事ないよ……」


 すいません。朔乃の事忘れかけてました。


「じゃあ、改めて。ミッション開始だ」


「じゃあ行くよ会長」


「行きましょう。シリル」


 アリスはシリルの前に片膝をつき、差し出されたシリルの左手を右手で下からその手をとるように添える。


「我、アリス・ブラッドフィールド。貴公を主と認め、其方の剣とならん」


 疑似の忠誠の儀には、王である者の名前とオーダーを必要としない。その分、オーダーのある忠誠の儀と違うなにかしらのリスクがあるのだろう。

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