2.
あれ? おかしい。何かが変だ。
俺は出された問題を見てふと、思った。この問題をもし、俺以外の奴が解といていたのなら何を答えとするか。そして、この問題を出した目の前の冷徹女の性格を予想する。
俺はこの問題を見て真っ先に思った事それは、心理をついたような難題。つまり、心理なんだからそもそもが正しい答えを望まれてはいないのでは、と。俺は解答欄に答えを書いた。
目の前の冷徹女は俺が書いた答えを見て鼻で笑いやがった。意外だったと言うより腹が立つ。
「俺の答え間違ってました? いきなり出されたからいい答えが浮かばなくてすいません」
ぎこちなく愛想あいそ笑いをしながら俺は様子を伺った。その時の冷徹女の顔は少し和らいだようににこやかな表情だった。
「いいよ。まさにその通りだ。正直者は私は好きだよ」
「ああ……そうですかそれなら良かったです……」
俺が書いた答えはただ、単純に「これから考えます」と全てそう書いただけだ。大したことはない。
これから始まる俺に出せた答えがこれしかないからだ。と言ってもきちんと考えた結果なんだが、最後の問題の「自分とは何か」以外は、おそらく性格診断的な問題だろう。
問一 騎士とは何か。真面目に答えて守るものと答えれば騎士として守りに徹する防御主体のタイプと分かられてしまうだろうし、逆に闘うものと答えれば攻撃主体のタイプと分かられてしまう。
問二 正義とは何か。正義についてはバトル漫画によく出てくる問答の定番だ。しかし、この答えにも正しい答えは存在しない。正義とは、言うなればどこを主体にして行動するか、自分が正しいと思っても他からは悪にも見える。つまりは、傲慢ごうまん。エゴイズムに過ぎないが、自分をどれだけ信じられて行動できるかだろう。
問三 忠誠とは何か。これは問二の補足で実行力を表している。
問四 闘うとは何か。これもまた、問一と問二のの補足になる問題だ。いや、そうだと思う。
考え過ぎと思われるかも知れないが、これもまた心理と言う事だろう。結果、俺は冷徹女に笑われた。
問五 自分とは何か。実を言うと一番の難題だった。全てにこれから考えます。と答えてしまったが、完全に引きこもりしていた癖が出てしまった。まぁ何度も言ってるが、正確には半引きこもりだ。学校にはたまに休むくらいで通ってはいたからな。
冷徹女はこの俺に何か言いたげな素振りを見せた。
「いやーすまん。すまん。実は問題出すやつ間違えたんだ。これは経験を積んだ者に後でだす問題でな。フフフ」
「なっ!」
完全に馬鹿にしやがった。俺が考えた時間を返せ! クソーすげームカつく。フフフってなんだよ! 不気味だよ!
「とりあえず、君が察した通り心理テストみたいになったが、お前の性格はだいたい理解した」
マジか! 半引きこもりのぼっちってばれたか! な訳ないか。それ以前に察した通りって俺の考えた事分かってんのか?
「私が推測するに、お前は状況判断能力に優れていて慎重に行動し最善を尽くすタイプだな。うん悪くないタイプだ」
おー!! 何か、かっこよく聞こえる。でも、半引きこもり生活で身に付いたようなもんだしな。事実言ってる事そんなに変わらないと言うね。 何か誉められてるし、それでいいか。
「おーい天月ー」
冷徹女は椅子の背もたれにのけ反りながら後方にいる朔乃に声をかけた。あからさまにめんどくさいと言わんばかりの態度だ。
朔乃は、いかにも母性の塊ぽい教師と話ている。緩めの三つ編みを片側に垂らして眼鏡をかけたのほほんとした女教師だ。向こうとこっちとで教師の対応に温度差を感じるのは何故だろう。と俺は心の中で訳もわからず途方に暮れた。
「げっ……」
(聞こえない聞こえないあんな女の声なんか聞こえない)
「天月さんたら本当に九条くじょう先生の事が苦手なのね」
「あいつ私にだけ厳しいんですよ。昨日だって私の目の前にレイピアを突き刺したんですよー」
「九条先生がそんな事を? 九条先生なりの愛情表現のつもりなのかな? まあとりあえず、先生をあいつだなんて言ってはいけませんよ」
「でもー」
「おーい天月ーコイツ今日から私のクラスだから仲良くしてやってなー。つか、天月今日は遅刻してないんだな。と、なると今日は雨でも降るのか?」
「うそっじゃあ私と同じクラス!! 一日中一緒とかクズ嶺はやっぱりストーカーなの?」
「す、ストーカー!?」
母性の塊先生は口元に手を添えてビックリしたのか。そんな素振りを見せた。
「つか、何最後の。まるで私が遅刻してばかりに聞こえると言うか、凄く傷ついたんですけど……」
朔乃の表情がぎこちない。それでいて、ぶつぶつ言って何かをこらえているようなそんな感じに小さく握りこぶしができている。
「な訳だから、久々にホームルームやるぞー。天月は先に戻ってろよ今居て遅刻とかしたら罰やっからなー」
「はあ?」
「つか、お前の名前は何て言うんだ?」
「クズ嶺みねよ」
「ちげーし!」
何で、「うそー」みたいな信じられないものを見たような顔してんだよー。
「そうかクズ嶺か」
「だから違いますって。俺の名前は
†
ーーシャフレヴェル騎士学園高等技科二年教室。
まぁいつもと言うかお約束の展開だろうとドアの前で想像する俺。
お約束と言うのは転入生への期待やどんな奴か噂やイメージで賑わいでいる感じの事だ。
冷徹女が先に入り俺を呼ぶ。
いざ、教室に入る。
……。
「きゃーーー」
俺の耳に真っ先に入った声は。想像通りの……そう想像通りの「きゃーーー」と言う。この後にカッコいいとかステキーなどと続けば俺も自分に自信がつくのだろうが、俺の耳に届いた「きゃーーー」は期待や歓迎に向ける生やさしいものではなく、「きゃーーー」に続いた言葉は罵声だ。変態やら痴漢やらレイプ魔とかさんざんな言われだ。出鼻をくじかれ最悪の言葉しかない。
何がどうして悲鳴をあげる。俺が何かしたと言うのか? 初対面でこんな仕打ちはあんまりだろ。
俺の想定では、たまたま道端で知り合った女子がたまたまクラスが同じで互いに驚き、直ぐにクラスに馴染む展開なはずだったんだが、実際は朔乃が同じクラスなのが分かっていたから展開はない。にしてもひどい空間だ。
本音を言うと早く立ち去りたい。
「えーじゃー簡単に自己紹介してくれ黒嶺」
「はい……名前は」
「早くしてくれるクズ嶺さーん。じれったいの私嫌いなんですけどー」
はいはい。お願いだからクズって言わないでくれ……でも、ありがとうと言った方がいいのか、朔乃の言葉に救われた気がする。俺に注がれていた目線が本当に分散した感じだ。
「えー先ほどの天月朔乃さんにはお世話になってまして初対面ではないのですが、皆さんとはまだ
何故に自己紹介の間で不安感が漂ただようひそひそ話が聞こえる? その声の元は朔乃の隣に座る女子二人だ。俺をまともに見ていない態度で直ぐにわかる。
一方、朔乃は方肘をつきたて窓際の席から外を眺めている。
「もしかしてさ、天月さんとあの転入生ってもう付き合ってるのかな」
「えーうそ-? だって天月さんだよ? クラスじゃ大人しいよ?」
「でも、お世話になってると言う事は一緒にいるんでしょ? それに今日だって二人で登校してたって聞いたよ?」
「うそ!? でも世話になってるだけじゃまだ定かじゃないよ? でも本当なら彼氏と彼女の関係なの? さっきだってあまり喋らない天月さんが口開いたし可能性は高いかもだけど」
これは俺にも非があるかも知れないが、朔乃がクラスから浮いて孤独に見えてしまうのは気のせいか。
「じゃあ席は……そうだな何処でもいいぞ」
「せんせーい。私、席ずれますから天月さんの隣にしてあげて下さーい」
大きなお世話だよまったく。それにしても朔乃はあの一言以来大人しい。今までの様子からして違う。明るくない。
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