二章 無能騎士

1.

「黒嶺刻夜さんですよね? はじめまして私はノエル・アークライトです。これからその……よろしくお願いします」


 朔乃と遅刻せずに登校して直ぐ、門を抜け校舎に向かって歩いている時だ。突然俺に挨拶をしてきた少女がいた。金髪で三つ編みにベレー帽そして眼鏡。見た目からすると、どっかの美術部の少女だろうか、少女は挨拶だけして行ってしまった。


「へーあんな子もいるんだな。思ったより普通の学校とそんな変わらないのかも」


「何ふぬけた事言ってんのよ。そうはあまくないわよここは。彼女だってここの生徒ならそれなりの事はできるはずよ」


「そうだよなここはそういった場所だもんな」


「クズ嶺はまず、教員室に行くのよね? なら、そこまで案内してあげるわ」


 朔乃が俺をクズ嶺と呼ぶことに俺は文句を言わない。言ってしまったらいけない気がするからだ。地味にグサリと刺さるが我慢だ。とりあえず、朔乃は単純に人の名前を覚えないと、頭の隅っこにでも入れておこう。それより、案内してくれるのはありがたい。なにせここは敷地は言うまでもなく広大で、校舎ときたらどこぞの王宮ですかってな感じだ。一人じゃ迷うに違いない。しかし、これを校舎と言っていいのか疑問だ。それに何だか昨日の比じゃないくらい人が賑わしている。みんなここに居るんだから生徒がほとんどなんだろ。


 昇降口と言っていいのか重厚じゅうこうある立派な門だ。昨日、朔乃に言われ向かった入り口とはまた別の場所で、他の生徒達も出入りしている。ようは、ここが主用の入り口なんだろう。


 中に入るとまあ想像通りの手入れの行き渡っている。ワックスがかかった光沢のある板張りの廊下に壁には美術館並みの絵画やオブジェなどが飾られている。


 すれ違う生徒達も服装は様々で制服は勿論だが、鎧や武器など今からハンティングに行くんですか? てな感じが少なからずいる。物騒極まりない。と言うのが俺の率直な感想だ。


 つまりは、いかにここがそう言った武装集団。じゃなかった。騎士達の学舎だと言う事だろう。


 武装? 朔乃にしても今は制服姿なわけだが、武装している者は何かあるのだろうか。ただ単純にクエストの準備か何かか? 今から集会があると言うのにご苦労な事だ。まあ俺も俺でここの環境に馴染めずに辺りをキョロキョロ伺っているわけだからから気にしなくてもいいところに目がいってるだけなんだが。


 騎士と言えど、俺自身いまいち騎士が何をするかあやふやだ。とりあえず闘う的なそんなイメージしかない。


 昨日は……そう、人鎧じんがいと言ったか、俺が知る人外じんがいとは、違う感じだったなあの爺さん。獣のような本能と言うやつか知らないが、例えるならまるで悪魔が人の皮をまとったようなそんな感じだった。俺が知る人外はゲームやマンガ等に出てくる怪物の総称みたいな感じで元が人間というのは同じでも、外見は既に人ではない事が多い。外見が人だと勝手が違う。あの時の俺は……恐怖感を感じつつも朔乃を助けたい一心で無力と分かっていながら騒動に手を出した。でも、幸いに爺さん自体に命の別状はないらしいが、俺の行動に人間的な感情があったのか? 思い返す度に俺は、何かを無くしてしまいそうな気がしてくる。朔乃もまた、人助けとしてとった行動だ。それをサポートしたのならいい行動だったのか、あれが日常だとしたら……。


「着いたわよ教員室に」


「えっ! もう?」


 全然把握出来ずに教員室に着いてしまった。


 ……心の準備が! あれ、ここに何の用事で来たんだっけ? 恥ずかしながら緊張しています。


 ドアを開け教員室の中まで一緒に入ってくれたのはいいが、朔乃もまた他の用事があったらしく足早に俺から離れ優しげな女教師に話かけに行ってしまった。


 えーと俺はいったい……。


 入り口で立ち往生していると、体格のいい男教師? 俺はその人に初っぱなから邪魔と言われてしまった。まあ、俺が突っ立っているのがいけないんだが。


 その男は見るからに中年で上半身ランニングシャツに下半身ジャージ姿まさに、体育教師のイメージがぴったしの男だ。


 俺よりこいつの方がシャフレヴェル騎士学園に不釣り合いなんじゃないか? と、思う。


 でだ、それがきっかけで俺はクラス担当の人に会いに来た事を思い出した訳なんだが、けして忘れていた訳ではないくてだな。緊張してるからだ。とは言え、担任が誰でどんな人か分からないのでどうしたらいいだろうか。


 まずは自分の名前でも叫んでやろうか。何て冗談が頭に浮かぶ。そして、バカな事とまた頭の中で笑う。どうしようもない俺。


 ふと、俺の背後にとてつもない殺気と言うか、圧迫感と言いますか、そんな気配がじりじりと俺の背中から脳にかけて全身に伝わって来た。


「ドアの側に立たれると私が入れないんだけど! にしてもわざとしてるわけではないようだが、もしかしてお前、昨日朔乃と一緒にいた奴か? 一応聞くが転入生じゃないよな?」


「いやー実はそうなんですけど……」


「そうかそうか、んなら私の机の所に来てくれテストしてやる」


 俺の背後に立っていたのは、昨日会った女憲兵その人だった。


 本当にここの教師だったとは……もしかしてこの人が担任とか言わないよな? 確かに昨日と打って変わって憲兵服でなく純白の白衣を黒色のスーツの上に羽織っちゃって教師らしいけども。ついでに腰ぐらいまで伸びた黒髪が似合う大人の女性な感じだけど、あの冷徹な性格はほとんどそのままか、何がテストだ! 何て残酷な事を口にするんだ。


 ともあれ、顔に覚えのある人がいてなによりではあった。


 この女は、昨日テロリストの情報を集めていたようだが、その事についてだろうか、他の教員達が「昨日はお疲れ様」と、声をかけている。その感じからして、ここでは俺だけがこの女を冷徹と思っているのか。


 言われた通り机の前に立ち俺は一枚のプリントを渡された。そこには問題が書かれていた。


 問一 騎士とは何か。


 問二 正義とは何か。


 問三 忠誠とは何か。


 問四 闘うとは何か。


 問五 自分とは何か。


 転入早々に出された問題は何故こんなにも心理をつくような難題なんだろう。今思うに、これが出来ればここに通う意味の大半をクリアしたと思うんだけど。

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