4.


 忠誠ロイントを交わす二人の周りを黄色いオーラのサークルが囲った。


 アリスの姿は昨日の落ち着いた弓兵らしい姿と打って変わり、ユリの花の装飾を髪に付け、黄色のフリルを所々にあしらわせ、袖口もユリの花弁を思わせるデザインになっている。一方で、華やかな作りの上に対し、下のデザインは身軽に動きやすそうな白色のタイトなパンツスタイルになった。そして、左手には剣のようなフォルムの黄色い光が現れ次第に弓の形に変化していった。


 アリスの戦闘装束は女性らしい綺麗なラインがはっきりしていている。


 魅力的な服装に目のやり場に困ると思いきやそれ以上に、左手に握られた弓に惹かれてしまう。弓の中央部から先端にかけて女性とユリの花を絡ませた彫刻が施されており何とも言えない存在感を放っているのだ。


「オーケー忠誠の儀完了だよ刻夜」


「おっおう。じゃあ朔乃は俺と。後、葵は……どうしようか」


「ちょっと待て! もしかして私だけ忠誠の儀なしなのか!? それじゃまるで諸刃の剣じゃないか!」


「いや、そんなことは言ってない。俺が葵の忠誠の儀した姿を見た事が無いから、たまたま最後になっただけだ」


「たったまたまだとこの変質者め! こんな一大事に何を言っているんだ」


 何で顔赤くして恥じらう。


 なに考えたんだ? めんどくせー。そう思っても顔に出さないようにしよう。と、心に止める俺。


「葵は何かこう。一人でも強そうだし」


「バカを言うな! 私だって女なんだからな! 強いとか言われても困る。というか、私の事なめてるだろ! 昨日ちょっと会っただけで私の事気安く呼びやがって。いったいなんなんだ」


「何をって。そっちが俺の事、何度も変質者って呼ん出るんだから名前で呼んだっていいだろう」


「ばっバカを言うな。変質者ってそんなに言ってなど……だが、貴様は、言われて当然な事を私に……」


「いい加減なさい。いつまで駄々をこねているんですか」


「ですが、アリス様。この男が……」


 朔乃は俺と葵とのやり取りをじーと殺気に近いなにかで見ている。


「葵さん。あの出入口を見なさい。先生方は既に魔技障壁を展開して扉を突破されないように塞いでいるんですよ。それだと言うのに情けないですよ」


「申し訳ありません」


に落ちないが貴様の言うことに今は従ってやる。だが、この場をしのげる程の指揮がとれてないと思ったら、私はアリス様に従うからな」


「いいだろう。俺もそれで文句はない」


 出入口を囲い俺たち生徒を守ろうと身構えていた教員達は魔技を展開し様々な障壁を立ち上げていた。


『ここは私が指揮をる先生方いいですね』


『はい。よろしくお願いします九条先生』


「よし! 俺達は俺達なりに皆を守るぞ!」


「じゃークズ嶺、やるよ」


「そうだな。葵も俺と忠誠の儀を交わせたりは?」


「忠誠の儀は一人に一人しか出来ませんけど」


 アリスが俺の疑問に呆気にとられた表情で答えた。


「やっぱそうだよな。何となくそんな気はしてたけど、俺、始めてだしやってみてくれないかな?」


「できるわけがないだろう!? まあ、貴様の為にできないことを証明してやってもいいがな」


 葵ってどんな性格なのかわからねぇ。


「何事も経験って事でお願いします」


 言った矢先、発作のように俺の目の前が暗くなり頭痛が俺を苦しめ出した。


 誰かに心を覗かれているようなじーんとした感覚だ。


 俺が頭痛に犯され始め何分経つか分からない。自力で立っていられず、よろめいた身体を演説台を掴み倒れずこらえた。


 そう言えば、あの自称天使は何処にいる。昨日の夜、姿を見た以来見ていないんだが、あいつはずっと俺と一緒にいるわけじゃないのか? この感覚はもしかして、あいつのせいじゃないよな? もしそうなら後で説教してやる。


 皆が俺を見ているのは分かる。


 俺を誰かが介抱しようとしてくれている。


「おい、いきなりどうした。大丈夫か黒嶺」


 近くにいるのに遠くで聞こえるその声に俺は細目を開ける。


 一番近くにいたのは、さっきまで言い合っていた葵だ。


 流石に葵のこんな一面を見ると呼び捨てにするのは間違えかな……。


「大丈夫。ありがとう葵さん」


「あ、ああ。それより、さっきまでの威勢は何処に言ったんだ。まるで別人じゃないか」


「俺はいたって普通だよ」


 俺の頭痛は徐々に治まり改めて、二人に忠誠の儀を交わすよう頼んだ。


「忠誠の儀は共鳴つまり、王と騎士は共に痛覚を共有することになるが、それでも大丈夫か?」


「そうよ。クズ嶺は来たばっかなのに無理をすることないんじゃない? また倒れるかも」


「いや、もう大丈夫。俺はここにいる皆を守りたい。そう思うんだ」


「そうか、そう言うことなら私のこの身今はお前の為に使おう」


「カッコいいじゃん! 刻夜」


「そうか? 何度も止めてしまって申し訳ありません。では、また改めて、よろしくお願いします」


「何か気持ち悪いんだけどクズ嶺。でも、今のクズ嶺なら大丈夫な気がする」


「皆さん落ち着いたなら流石に動きませんと」


「そうですね。アリス会長」


 朔乃と葵は隣り合わせに静かに俺の前に方膝をつき伸ばした俺の左手に触れた。


「我、天月朔乃。貴公を主と認め、其方の剣とならん」


「我、葵雪菜あおいゆきな。貴公を主と認め、其方の剣とならん」


 王である者にも同じ痛みがともなうときたか、だいたい予想はついていたが実際どれ程のものなんだか。昨日、朔乃と忠誠の儀を交わしてた時は痛みを感じなかったからよく分からないし、とりあえず用心はしておこうか。


 昨日とは違う感覚だ。俺の前にいる二人はそれぞれ赤と青のオーラに包まれた。


 本来出来ないと言われ、ダメもとでやってみた二人同時の忠誠の儀はまさかの成功をしてしまった。やれてしまったことに俺も少し戸惑いを隠せない。


 そして、俺は考えた。忠誠の儀中は騎士と王になった同士はテレパシーのように思考共有がされるはず、つまり今の状況だとどうなるのか。


 つまり……今の俺の頭は崩壊まっしぐらだ。


(嘘だろ! イレギュラーだ。流石にヤバイこれは追放ものだぞ。やはりこの男変質者だったじゃん)


(クズ嶺のけだもの! 変態! 何でこいつとも成功させちゃうのよほんとありえない。ほんとのクズだわ)


 あーもぉうるせーなおい!!


(……)


(……)


 俺も本当にできると思ってなかったけど、できちまったんだからどうしようもないだろ。とは言え、ここからが本番と言うわけだから。


 アリスとシリルも驚いた表情をしている。やっぱり、イレギュラーだったんだな。


「余計な事考えるの禁止ー今の事だけ考えればいいから」


「そうだな朔乃やるぞ!」


 朔乃は昨日と同じ戦闘装束。一方、葵の服は青色の丈短めな忍び装束のようで葵の華の刺繍ししゅうが施されている。それと、頭には恐ろしい表情の般若はんにゃめんがある。


「貴様の思考が私にも聞こえるんだから、戦う前に恐ろしいとか最低だな。そもそもこの戦闘装束は貴様のイメージからできているんだから私のせいじゃない! だが、身軽で自由がきく装束をイメージしたのは誉めてやる。それに私の叢雲むらくもに合っているからな」


「そうかな。まあ俺も葵が顕現した剣が刀とは思わなかったんだけど」


「そうか? 葵家はもとより片刃の剣を使う家柄として有名なんだがな。それより早く指示を出してくれ」


「そうだな。アリス会長は上の窓から外に出て、この騒動の原因を探ってくれますか。で、シリルは俺にその情報を伝えてくれ。朔乃と葵はこの集会に入って来るであろう何かに対し先生等と共闘に入る感じで」


「「「「仰せのままに!」」」」

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